脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

March 29 2019 “高齢者に対する血栓回収療法の有用性”

“Revascularization and functional outcomes after mechanical thrombectomy for acute ischemic stroke in elderly patients”

Andrews CE, et al.

J Neurosurg e-pub ahead

 

【背景】

 主幹動脈閉塞の急性期治療として機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy; MT)は広く普及してきている。80歳以上の高齢者に対するエビデンスには乏しいが、HERMESやDAWN trialではMTの薬物治療に対する優位性が示唆されているものの、否定的な意見も存在する。高齢化の進む社会において高齢者に対するMTの治療適応は重要な問題であり、本報告ではその再開通率と転帰について評価した。

【方法】

 Thomas Jefferson University Hospitalにおいて2010-2017年でMTを行った403例を対象とし、後方視的に検討。データは脳卒中リスクや臨床経過から合併症まで多岐にわたって調査。転帰不良はmRS 3-6とした。

【結果】

 403例中86例が80-89歳、14例が90歳以上であった。80歳未満、80-89歳、90歳以上の3群に分けて評価。入院時のNIHSSやtPA使用、背景疾患にはほとんど有意差を認めなかったが、冠動脈疾患のみ80-89歳の群で多かった(29.1%)。TICI Grade 2B以上の有効再開通率や死亡率、再入院率も3群間で有意差を認めなかった。術後合併症については尿路感染症のみ90歳以上に有意に多い結果となった(42.9%)。mRS 0-2の良好な転帰は80歳未満で有意に多かった(34.7%)が、多変量ロジスティック回帰分析に回すと有意差は認めなかった(p=0.078)。TICI grade 2B以上の有効再開通は良好な転帰に関与し、入院時のNIHSS高値が転帰不良に関与したが、高齢であることは転帰不良に関与する因子とは認めなかった(p=0.078)。

【考察】

 80歳以上の高齢者に対するMTは賛否が別れるところであるが、本報告は過去の報告と同様に再開通率が鍵を握っていることを示した。100例が対象となる報告は過去に例がなく、HERMESでのデータをreal worldからサポートするものである。90歳以上についても入院関連合併症は多いものの、MTは有効と考えられる。しかし90歳以上についてはサンプル数があまりに少ないと言える。

【結論】

 80歳以上の高齢者に対しても適切な症例においてはMTが有効であると考えられる。

【ひとこと】

 高齢化が世界的な問題であるが、発症前の状態などを考慮して高齢者に対するMTは慎重に適応を考える必要がある。医療経済的には果たしてどうなのだろうか。