脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

March 27 2012 “高齢者は入院を契機に認知機能低下が加速する”

“Cognitive decline after hospitalization in a community population of older persons”

Wilson RS, et al.

Neurology 2012; 78: 950-956

 

【背景】

 高齢者の認知機能低下は身体障害、うつ病、死亡のリスクとなり、高齢化の進む現代社会においてその影響を減らすことは目下の問題である。入院は高齢者の認知機能と関連があると考えられており、過去にも高齢者の入院は認知機能の低下に伴ってADL自立度を低下させることや、重症でない病気や健康状態(糖尿病、COPD、虚弱体質、BMI等)が晩年の認知機能低下に関与することなどが報告されている。しかしながら入院前後の認知機能の変化を調べるのは容易ではなく、その入院との関連を調査した報告は多くない。

【方法】

 シカゴ在住の1870例の高齢者を対象としている。平均9年以上の観察期間において3年間隔で3-5回認知機能を評価した。

【結果】

 1870例中1335例が観察期間中に入院を経験した。観察開始から平均3.8年後に入院しており、平均在院期間は5日間であった。入院後の平均観察期間は5.7年。入院を経験した群はしていない群と比較してベースラインからして認知機能低下や身体障害、抑うつ傾向にあった。入院前は認知機能の点数が0.031単位/年で低下していったが、入院後は0.075単位/年で低下しており、認知機能の低下が2.4倍加速した。それぞれの機能について評価すると、エピソード記憶では3.3倍、遂行機能では1.7倍加速して低下していることがわかった。Charlson score(併存疾患)高値や長期入院は入院後の認知機能低下のリスクであった。高齢であることはベースラインの認知機能が低く、その低下速度も速かった。

【考察とまとめ】

 高齢者の入院は認知機能の低下を加速させた。入院前後の認知機能の推移を比較することは困難であり、報告も多くはない。高齢者においては入院中のせん妄のリスクが高く、重症患者の75%、手術患者の25-65%にせん妄が発生すると言われている。せん妄の発生は慢性的な認知機能障害にも関与する。本報告では重症患者はわずか3%であったが、15-20%がせん妄状態を経験したと予測される。せん妄による急性の脳機能障害が退院後の認知機能に影響を与えた可能性がある。重症症例や長期入院症例において認知機能低下がより加速したことから、深刻な状態にある患者が優位に悪いことがわかるが、これは同時にせん妄のリスクでもあり、その関与も考えられる。

 高齢者の認知機能障害は世界的な健康問題であり、入院による認知機能低下の可能性を考慮に入れた上で診療に当たる必要がある。リミテーションとしては3年感覚での評価のため、入院前後の急性期の評価が困難であることや、入院後最低6年は生存していないと評価の対象にならないことが挙げられる。

【ひとこと】

 入院という行為自体がその後の認知機能増悪のリスクとなる。短期であっても不必要な入院は避けるべき。