脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

June 06 2018 “入院時の顆粒球/リンパ球比はLVOの予後予測に有用”

“Admission Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio as a Prognostic Biomarker of Outcomes in Large Vessel Occlusion Strokes”

Goyal N, et al.

Stroke. 2018;49:1985-1987.

 

【はじめに】

 入院時の好中球/リンパ球比(NLR)は急性期脳梗塞患者の短期および長期予後の予測に有用である。高いNLRは高い炎症反応を示唆する。血栓溶解療法を実施した患者でのNLR高値は出血性変化の高リスクとされているが、機械的血栓回収療法(MT)についての報告は限定的である。MTの安全性、有効性との関連を調査した。

 

【方法】

 多施設でのデータベースから検討した後方視的研究。対象は2012年1月から2016年6月、血栓溶解・血栓回収の前に検体を採取。安全性のアウトカムは症候性頭蓋内出血、3ヶ月後死亡率、有効性のアウトカムは3ヶ月後転帰良好(mRS 0-2)とした。

 

【結果】

 293症例が対象、症候性頭蓋内出血は21例(7%)に認めた。

 (S-Table1)単変量解析では、有効再開通率とNLRには相関はなかったが、症候性頭蓋内出血群、3ヶ月後死亡群、3ヶ月後転帰不良群でNLRの中央値が高い結果となった(症候性頭蓋内出血: 8.5 vs 3.9; P<0.001、3ヶ月後死亡: 5.4 vs 4.0; P=0.004, 3ヶ月後転帰不良: 4.4 vs 3.6; P=0.033)。3カ月後に機能的に自立した患者ではNLRが低かった(3.7 vs 4.3; P=0.039)。NLRの高値は発症から来院までの時間とLow APECTSに強い相関を示した(P<0.001)が、来院時のNIHSSとは相関を示さなかった。

 (S-Table2,3)ロジスティック回帰分析ではNLRは3カ月後転帰良好や3カ月後転帰不良との相関に有意差はなかった。(S-Table4,5)NLRの1ポイントの上昇は3カ月後死亡にオッズ比1.08(P=0.014)、症候性頭蓋内出血にオッズ比1.11(P=0.006)で関連した。

 (S-Figure1) ROC曲線を引くと、NLRと症候性頭蓋内出血、3ヶ月後死亡との関連が示された(P<0.001, P=0.004)。NLRによる症候性頭蓋内出血と3ヶ月後死亡の予測のためのカットオフ値はそれぞれ6.62 (感度71%、特異度76%)と4.29(感度59%、特異度56%)であった。

 

【考察】

 過去の報告と同様にNLRが高い患者は予後不良であるとの結果であった。本報告はMT後の転帰を検討した最大の報告である。

 脳梗塞発症後はプロテインキナーゼC(PKC)やfocal adhesion kinase(FAK)などの活性化も含めた炎症反応により、BBBの透過性亢進が生じる。また、発症から24時間でMMP-9(マトリックスプロテアーゼ9) の発生に好中球は関与しているとされる。NLRの高値はMMP-9の高値によるBBB破綻と関連し、出血性変化をきたす可能性がある。

 NLRの測定は簡易であり、MT後の転帰だけでなく、脳卒中後の感染症など様々な合併症の予測に有用である可能性がある。実際にPREDICT studyという有効再開通後の転帰不良の予測因子でのスコアリングにも使われている(血栓溶解療法の有無、側副血行路の状態、血糖値、NLR、NIHSS)。

 Limitationは後方視的研究であること、第3機関のチェックを受けていないこと、NLRの変動性の評価をしていないこと、予測されない交絡因子は取り除けていないこと、出血の検出に用いた方法が統一されていないこと、NLRの分布が正規分布でないこと、観察研究であるため因果関係についてははっきりしないことが挙げられた。

 

【ひとこと】

 MTは有効再開通率が高くとも、転帰不良例は一定数いる。今後医療経済的には転帰良好例をより高い確率でピックアップしていくことが必要だろうが、倫理的にも難しい問題。