脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

November 1 2019 “慢性硬膜下血腫に対する硬膜下VS骨膜下ドレナージ(cSDH-Drain-Trial)”

“Subperiosteal vs subdural drain after burr-hole drainage of chronic subdural hematoma: a randomized clinical trial (cSDH-Drain-Trial)”

Soleman J, et al.

Neurosurgery 2019; 85: E825-E834.

 

【はじめに】

 慢性硬膜下血腫は高齢者の脳神経外科疾患で最も頻度の高いものの一つであり、多くが良好な予後をたどる。Burr holeからのドレナージが標準治療とされているが、10%程度の再発率がある。硬膜下ドレーン(subdural drain; SDD)の留置が再発率を下げることは報告されているが、脳表と硬膜の間にドレナージチューブを挿入する行為は出血性合併症のリスクを孕むことが予想され、近年は骨膜下ドレーン(subperiosteal drain; SPD)の有効性・安全性も報告されている。SPDのSDDに対する非劣勢を証明することを目的とした。

【方法】

 多施設共同前向きランダム化比較試験。対象は手術を要する慢性硬膜下血腫患者。手術は全例が2 burr holeを開ける方法で行われた。血腫の最大径の端にburr holeを2か所穿ち、生理食塩水で内部を洗浄。ドレーンは後方から前に向けて硬膜下もしくは骨膜下に留置、48時間そのまま自然解放とした。プライマリアウトカムは1年以内の手術を要する慢性硬膜下血腫の再発。セカンダリアウトカムは再発以外の再手術率、死亡率、GCS、mRS、GOS、Markwalder score、入院期間、midline shift、ドレーンの留置位置のミス、再発以外の頭蓋内出血などとした。SDD, SPD間でのクロスオーバーも可とした。

【結果】

 220例が登録され、107例がSDD、113例がSPDに割り当てられた。背景因子は2群間で有意差はなかった。1年間での再発率はSPD群で低かった(8.33% vs 12.0%)が、非劣勢を証明するには至らなかった。その他の評価項目はほとんどが変わらなかったが、術後感染はSPD群で有意に低かった(2.5% vs 9%, p=0.0406)。ドレーンの留置位置のミスはSDD群で17%に見られたが、SPD群では見られなかった(p=0.0001)。

【考察】

 過去の後ろ向き研究ではSDDとSPDは同等であると報告されていることが多い。本報告では感染とドレーンの留置ミスがSDDで多い結果となった。SDDはSPDと比較してより侵襲的な治療であり、この結果は妥当である。ドレーンが深部に留置されていることや、時にドレーンの留置が困難であることが SDDに感染が多い原因ではないかと考える。ドレーンの留置位置の間違いが多いことに関しては、ドレーンを血腫の長径に渡って挿入していることや、比較的硬くて丈夫なドレーンを使用したことが原因かもしれない。両者の最終的な予後に有意差がなかったのは、創部感染のほとんどが表層のみに留まったこと、ドレーンによる実質の損傷も一部は無症候性であったことが原因として挙げられる。また、全体の60%の症例が抗血栓薬を使用していたが、再発率には影響を与えなかった。本報告の制限は症例のクロスオーバーが多いこと(6-13%)である。

 慢性硬膜下血腫に対する骨膜下ドレーン留置は従来法の代わりになりうる。創部感染や医原性の脳実質損傷の減らすことも期待できる。

【ひとこと】

 慢性硬膜下血腫手術は色々な方法で行われているが、症例数が多い割に明確な手術法が確立されていない。骨膜下ドレーン留置は安全性の面ではかなり有効に思える。