脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

June 18, 2015 “Normal Pio-dural Arterial Connections”

“Normal Pio-dural Arterial Connections”

Bhogal P, et al.

Interv Neuroradiol. 2015 Dec; 21(6): 750-758.

 

【はじめに】

 硬膜の血流は内/外頸動脈系から豊富かつ複雑に供給されている。血管内治療においてその解剖の理解は必須であり、硬膜血流への軟膜動脈の関与についてまとめた。

【硬膜とは】

 5000年前に古代エジプト人が脳の周りの膜について初めて記載しているが、ギリシャ人Erasistratusが「meningies」「meninx」とその膜について定義したのは紀元前3世紀の話だ。2世紀に入ってGalenが硬膜を2層構造であると示し、イタリア人修道士のStephen of Antiochがラテン語に翻訳した。

 硬膜は骨側のendosteal layerと脳表側のmeningeal layerの2層構造である。静脈洞、視神経、大後頭孔では2層は別れている。Meningeal layerは下方に連続して脳神経や脊髄を囲む。脳神経が頭蓋外に出る際に神経上膜とmeningeal layerは癒合するが、視神経に限っては眼球強膜と癒合する。血管外膜とmeningeal layerも癒合する部位がある。Meningeal layerは時にfalxやテントを形成するために内側に折れ返っている。Endosteal layerは骨膜と連続する構造になっている。

【硬膜の血管】

 頭蓋骨、硬膜、くも膜、軟膜の構造はは胎児の頭臀長(crown-to-rump length: CRL)が12-20mmに達した頃に分かれる。この段階で硬膜外、硬膜、硬膜内の血管構造もそれぞれに分離される。硬膜の血流はほとんどが硬膜動脈から供給されるが、一部は軟膜動脈からの供給を受けている

  • ACA - olfactory branches and pericallosal branches
  • ACA - anterior falcine artery
  • PCA - the artery of Davidoff and Schechter
  • SCA - the medial dural tentorial branch
  • AICA - the subarcuate artery
  • PICA - posterior meningeal artery

【前大脳動脈 (ACA)】

 ACAからの硬膜への供給は近位と遠位に別れる。

 近位は篩板でのolfactory branchesとethmoidal arteriesの吻合である。Persistent primitive olfactory artery (PPOA)は0.14-0.29%程度の稀な遺残動脈である。発生学的にprimitive olfactory artery (POA)はprimitive internal carotid arteryのcranial division (rostral division)とcaudal divisionのうち前者から形成される。Medial olfactory artery (MOA)とlateral olfactory artery (LOA)に分かれ、MOAはACAとなり、LOAはlateral striate artery, anterior choroidal artery, recurrent artery of Heubner, MCAとなる。MOAは嗅索に枝を送るが、通常これらは発生途中で退縮する。PPOAではこれが退縮せずに遺残する。

 PPOAは4タイプに分かれて報告されている。Type 1はICAからPOAが直接分岐し、ヘアピンカーブを描いてACAの遠位へ還流するタイプであり、通常のA1 segmentは欠損する。Type 2はA1から血管が分岐し、篩板を通って鼻腔へ向かう。Type 3はtype 1とtype 2の移行期を呈しており、2つのbranchesを持つ。Superior branchはcallosomarginal arteryとなり、anterior branchは篩板へと伸びる。Type 4はA1から分岐し、嗅索に沿って走行するが途中で折り返してaccessory MCAとなる。

 遠位ではpericallosal arteryの末梢からfalx cerebriに枝を送る。これはanterior falcine arteryやPCAの硬膜枝と吻合する。

【後大脳動脈(PCA)】

 1965年にWollschlagerがPCAからの硬膜動脈を示し、mentorの名前にちなんでthe artery of Davidoff and Schechter (ADS)と名付けた。通常のDSAでも時折見かける吻合である。近年ではADSはほとんどがP2から分岐すると言われているが、稀にP1からも分岐する。典型的にはSCAの後下外側を回り、滑車神経の上を通る。Tentorium cerebelliの深部を同側のテント切痕へ向かい、tentorium cerebelliに血液を供給しつつfalx cerebriの後方1/3にも枝を送る。両側で見られることもあるが、片側が多く、何故か男性の左側に多い。Anterior branchとposterior branchに分かれる事がある。髄膜腫、血管芽腫、dAVSのfeederとなりうる。

上小脳動脈 (SCA)】

 SCAからtentorium cerebelliやfalcotentorial junctionに小さい枝を送る事があり、tentorium cerebelliやテント切痕後方を栄養するmedial tentorial branchは手術中28%に見られたとの報告もある。ADSと吻合を形成する事があるので注意が必要である。

【前下小脳動脈(AICA)】

 Subarcuate arteryはAICAの橋外側部分から分岐し、内耳孔の内側に位置する。硬膜を貫通してsubarcuate canalに入り、内耳道や半規管を栄養する。OAのstylomastoid branchやmastoid branch、MMAのpetrous branchと吻合する。AICA閉塞の時に機能する場合がある。この吻合は迷路動脈(labyrinthine a.)や皮質動脈からも発生しうる。皮質動脈から吻合を形成する場合はcerebellosubarcuate arteryという。

【後下小脳動脈(PICA)】

 Posterior meningeal arteryはPICAの枝として出うるが、VAやOA、ICA、APhaAの枝としても出うる。側面透視の撮影で観察しやすく、内後頭稜の後上方を走行してfalx cerebelliに達する。後頭蓋窩と環椎後頭関節(atlanto-occipital joint)周囲の硬膜を広く栄養し、MMAやOAと吻合する。Artery of falx cerebelliもPICAの枝として出る事がある。

【考察】

 生理的な軟膜-硬膜動脈吻合は様々な部位で存在し、塞栓物質などを他のシステムに飛ばしうる。血管内治療の際に生理的吻合を理解しておく事は必須である。dAVS症例においてのこれらの吻合の関与はまだ解明されていない部分が多いが、通常の硬膜動脈だけでなく軟膜-硬膜動脈吻合においても同様の機序が含まれると考えられる。Angiogenic growth factorが関与するのだろう。

【結論】

 動静脈シャントへの供給動脈の評価や、塞栓物質を用いた治療の際には軟膜-硬膜動脈間の生理的シャントの理解も必要である。

【ひとこと】

 生理的吻合とdAVSとの関連は興味深いが、症例数が少なく検討は難しそう。解剖の勉強は根気が必要で、読むだけで非常に疲れた(笑)。