脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

March 14, 2008 "Vertebral artery stump syndrome"

"Vertebral artery stump syndrome"

T. N. Nguyen, et al.

J Neurol Neurosurg Psychiatry 2008; 79: 91-92

 

【要約】

 動脈の血流が閉塞した時、遠位に塞栓を飛ばす血流がないためさらなる虚血イベントは起こらないと考えられる。しかしCarotid stump syndromeでは外頸動脈からの側副血行によって虚血イベントの再発が起こることがある。椎骨動脈閉塞後に後方循環の繰り返す脳梗塞をきたした、vertebral stump syndromeの2症例を経験したため報告する。

 

【背景】

 脳梗塞の原因としてのCarotid artery syndromeについてはよくレビューされており、外頸動脈からの側副血行により内頸動脈系の脳梗塞をきたす病態である。椎骨動脈(VA)閉塞後に後方循環に同様の病態を来す症例については未だ報告がなく、2症例を経験したため報告する。

 

【症例1】

 66歳男性で主訴は一過性の右同名半盲と複視であった。Aspirinの内服を開始したが、症状を繰り返した。MRAで左VAが起始部から閉塞している状態であり、抗凝固療法を開始した。しかしその後右上方四分盲、左下肢失調、失調歩行が出現、MRIでは左鳥距溝と左小脳半球に急性期梗塞巣を認めた。

 血管造影検査ではVAは起始部で閉塞しており、C5の高さで遠位からの逆行性血流をdeep cervical arteryより認めた。これが塞栓の原因と考えられた。

 内科治療の効果を認めなかったため、deep cervical arteryにマイクロカテーテルを挿入してVAの血流鬱滞部の遠位をコイルで塞栓した。warfarinを1年間内服し、その後aspirinに切り替えてイベントフリーで経過している。

 

【症例2】

 54歳男性で主訴は眩暈、視界のぼやけ、ふらつきであった。診察上は左上方四分盲があり、MRIでは右後頭側頭葉の脳梗塞を認めた。血管造影検査では左VAの起始部の閉塞を認め、C1の高さでdeep cervical arteryからの側副血行があった。アスピリンの内服を開始した。最終的には右VAアプローチで左VAの側副血行路より近位でコイル塞栓術を施行した。1年間aspirin+clopidogrelを使用し、イベントフリーで経過している。

 

【考察】

 この2例のVA起始部閉塞後に後方循環系の脳梗塞を発症する病態を”vertebral stump syndrome”と名付けた。

 VAは発生学的にcervical, occipital, and ascending pharyngeal arteryの3系統から側副路を形成する。Cervicalからはdeep cervical arteryやascending cervical arteryが吻合を形成する。Occipital arteryはC1-2レベルで吻合を形成する。Ascending pharyngeal arteryはmusculospinal branchを介してoccipital arteryに吻合する。

 病態としては閉塞したVA起始部、もしくは以降の血液停滞部位からの血栓が順行性血流によって遠位に飛んだことが最も考えられる。VAが閉塞している岳では順行性血流は発生し得ないため、この病態の説明には側副血行からのVAへの血流が必要不可欠である。2症例ではVA遠位の塞栓によって症状の再発を抑えられており、これもこの仮説を支持する結果となっている。しかし、VA遠位の塞栓はそれ自体が血栓形成の原因となりかねないため、安全性の保証はない。代替案としては側副血行路の塞栓も考えられる。

 

【ひとこと】

 珍しいが、非常に興味深い病態。たまたま同様の病態の症例を経験したので読んでみた。