脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

May 16 2019 “ダビガトランとアスピリンのESUS再発予防効果に差はない: RE-SPECT ESUS trial”

 “Dabigatran for prevention of stroke after embolic stroke of undetermined source”

Diener HC, et al.

N Engl J Med 2019; 380; 1906-17.

 

【はじめに】

 虚血性脳卒中の20-30%は塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source: ESUS)であると言われており、原因不明の脳梗塞の場合は抗血小板薬が広く用いられているが、近年ではダビガトランを含めた抗凝固薬が脳梗塞再発リスクの高い患者について用いられてもいる(心房細動を有する場合など)。

【方法】

 RE-SPECT ESUSは国際的二重盲検ランダム化比較試験である。2014年12月から2018年1月までの42カ国564施設で実施された。ESUSの定義はラクナ梗塞でなく、50%以上の責任血管の狭窄がなく、6分以上持続する心房細動がないこととした。2群はダビガトラン内服群とアスピリン内服群に1:1でわけ、プライマリアウトカムは脳卒中の再発とした。

【結果】

 5830例が対象となり、5390例がランダム化された。ヨーロッパ、アジア、北米、中米から登録され、平均年齢は64.2歳、36.9%が女性であった。フォローアップ期間の中央値は19ヶ月(13-27)であり、ダビガトラン群の24.9%、アスピリン群の21.1%がフォローをドロップアウトした。

 脳卒中の再発はダビガトラン群の177例(6.6%)に、アスピリン群の207例(7.7%)に見られた(p=0.10)。虚血性脳卒中の再発についても有意差はなかった。大出血に関しては有意差はないものの、症候性の小出血エピソードはダビガトランに多かった(hazard ratio: 1.73)。

【考察とまとめ】

 ESUSに対するダビガトランのアスピリンに対する優位性は示すことができなかった。ESUSの中には検出できなかった心原性脳塞栓症が含まれていると考えていたため、この結果は予想しないものであった。1年以上の長期フォローアップを行った群に関してはダビガトランの優位性も示唆されたが、これはフォロー期間中に発作性心房細動が増えていく可能性も考えられた。過去のCRYSTAL-AFやFIND-AFからは、原因不明脳卒中患者はフォローし続けると年間10-15%の症例に心房細動が新たに検出されるとされている。過去に行われたリバロキサバンを用いたNAVIGATE ESUSではリバロキサバンを減量doseで使用していたが、RE-SPECT ESUSではダビガトランを添付文章同様の減量基準を用いて容量を判定している。また、フォロー期間も長く行うことができている。しかしながら、ダビガトランはアスピリンと比して有効であるというデータは得られず、症候性の小出血がダビガトランに多かった。

【ひとこと】

 合併症・医療経済的にもアスピリンが優位であるが(アスピリン100mg1錠=5.6円、ダビガトラン75mg1錠=136.4円: 通常doseなら1日545.6円)、長期の脳梗塞再発リスクをみるとダビガトランが優勢になる可能性はある。さらなる長期フォローアップが行われれば結果も変わってくるかも。