脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

February 05 2020 “頭部外傷患者の気管切開のタイミング”

“Tracheostomy practice and timing in traumatic brain-injured patients: a CENTER-TBI study”

Chiara R, et al.

Intensive Care Med. 2020

 

【はじめに】

 気管切開は人工呼吸器管理期間やICU滞在日数を減少させ、人工呼吸器関連肺炎や気管トラブルを回避すると言われている。頭部外傷後の気管切開の適応は人工呼吸器離脱困難、気道反射の消失、換気量の低下、分泌物の処理困難である。しかしながら、気管切開が有効な頭部外傷患者の適応やそのタイミングについては未だ一定の見解が得られていない。

 慣習的に1週間以内に気管切開を行うことを早い、1週間以降に行うことを遅いと言うが、理想的な気管切開の時期は定まっておらず、1週間前後において死亡率の差は過去の報告でなされていない。

 CENTER-TBI studyのデータをから気管切開のタイミングや関連因子などについて評価した。

 

【方法】

 CENTER-TBI (Collaborative European NeuroTrauma Effectiveness Research in Traumatic Brain Injury) studyはヨーロッパの65施設が参加した前向きデータベースである。気管切開がICUで行われた患者のうち、CTで頭部外傷の診断を受け、受傷より24時間以内に病院を受診していて、72時間以上のICU滞在がある患者が対象となった。除外項目は72時間以内の死亡と72時間未満のICU滞在である。

 Primary endpointは6ヶ月後のGOSE (extended glasgow outcome scale)であり、GOSE4以下は転帰不良とされた。

 気管切開の実施に関与した因子、国や施設間の違い、気管切開の時期の予後への影響について検討した。

 

【結果】

 2138症例中、1358症例が72時間以上のICU滞在を認めた。

 気管切開を行った群と行わなかった群では、主に重症度の差を認めた(GCSが低い、瞳孔不同が多い、酸素化不良が多い、低血圧が多い、ISS (Injury Severity Score)が高い、頭蓋内以外の損傷(特に顔面と胸部)が多い、ICPモニター挿入例が多い、VAPの罹患率が高い、呼吸不全が多い)。

 気管切開までの平均期間は入院から9日間で、6.9%は入院当日に実施された。気管切開の時期をearlyとlateにわけ、early群は高齢で、低血圧の合併・既往が多く、顔面外傷が多かった。Late群はVAPと呼吸不全の合併が多かった。

 Cox回帰分析にて気管切開に至る因子について多変量解析を行うと、年齢、意識障害、瞳孔不同、顔面・胸部外傷、低酸素が気管切開の実施に関わる因子であった。

 また、国間や施設間の差を調べると、多くの施設では1週間以上経過してからの気管切開が多く、またその比率は同じ国の中でも施設によって異なった。

 Early群とlate群でICU死亡率、6ヶ月後死亡率、6ヶ月後GOSEには有意差は認めなかったが、ICU滞在日数と入院日数の短縮が見られた。多変量解析では有意な関連は見られなかったが、変数の捉え方によって(カテゴリー変数もしくは離散変数)、early群と転帰良好との関連が見られたりした。また、気管切開を1日遅らせるごとに4%の転帰不良の危険が、6%の死亡の危険が増加するとの結果も得られた。

 

【考察】

 CENTER-TBI studyに基づいた本研究は頭部外傷患者の気管切開における最大の研究である。

 過去の研究に比べ、本研究は気管切開を行った患者が多く(31.8%)、頭部外傷患者以外の研究と比べて気管切開に至るまでの期間が短い(41%が1週間以内)。

 頭部外傷患者の急性期には頭蓋内病変の管理が最優先されるが、その後は鎮静の終了や人工呼吸器の離脱、リハビリテーションが主な治療となる。そのタイミングでの気管切開が望まれるかもしれない。

 気管切開の適応や時期に関しては未だ施設間の差があるが、本報告も受傷早期の気管切開を推奨する結論となった。過去の論文では死亡率の差が出ているものもあるが、本報告では死亡率の差は見られなかった。

 1日でも早くの気管切開が、転帰不良率や死亡率の観点からは望まれるが、頭部外傷患者の場合は頭蓋内病変の管理に重症だと特に時間がかかることもあり、早期の気管切開に踏み切れない原因となりうる。

 Limitationは多数の評価項目は設けているが、交絡因子による影響は避けられないこと、データベースからのスタディであり、時に記載のないデータがあることであった。

 

【ひとこと】

 超急性期を乗り切ると目を覚ましてきて通常に抜管できる患者も少なくはなく、なかなか気管切開に踏み切るタイミングは難しい。しかしながら肺炎や分泌物コントールの観点では横着せずに気管切開が理想か。