脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

November 1 2019 “慢性硬膜下血腫に対する硬膜下VS骨膜下ドレナージ(cSDH-Drain-Trial)”

“Subperiosteal vs subdural drain after burr-hole drainage of chronic subdural hematoma: a randomized clinical trial (cSDH-Drain-Trial)”

Soleman J, et al.

Neurosurgery 2019; 85: E825-E834.

 

【はじめに】

 慢性硬膜下血腫は高齢者の脳神経外科疾患で最も頻度の高いものの一つであり、多くが良好な予後をたどる。Burr holeからのドレナージが標準治療とされているが、10%程度の再発率がある。硬膜下ドレーン(subdural drain; SDD)の留置が再発率を下げることは報告されているが、脳表と硬膜の間にドレナージチューブを挿入する行為は出血性合併症のリスクを孕むことが予想され、近年は骨膜下ドレーン(subperiosteal drain; SPD)の有効性・安全性も報告されている。SPDのSDDに対する非劣勢を証明することを目的とした。

【方法】

 多施設共同前向きランダム化比較試験。対象は手術を要する慢性硬膜下血腫患者。手術は全例が2 burr holeを開ける方法で行われた。血腫の最大径の端にburr holeを2か所穿ち、生理食塩水で内部を洗浄。ドレーンは後方から前に向けて硬膜下もしくは骨膜下に留置、48時間そのまま自然解放とした。プライマリアウトカムは1年以内の手術を要する慢性硬膜下血腫の再発。セカンダリアウトカムは再発以外の再手術率、死亡率、GCS、mRS、GOS、Markwalder score、入院期間、midline shift、ドレーンの留置位置のミス、再発以外の頭蓋内出血などとした。SDD, SPD間でのクロスオーバーも可とした。

【結果】

 220例が登録され、107例がSDD、113例がSPDに割り当てられた。背景因子は2群間で有意差はなかった。1年間での再発率はSPD群で低かった(8.33% vs 12.0%)が、非劣勢を証明するには至らなかった。その他の評価項目はほとんどが変わらなかったが、術後感染はSPD群で有意に低かった(2.5% vs 9%, p=0.0406)。ドレーンの留置位置のミスはSDD群で17%に見られたが、SPD群では見られなかった(p=0.0001)。

【考察】

 過去の後ろ向き研究ではSDDとSPDは同等であると報告されていることが多い。本報告では感染とドレーンの留置ミスがSDDで多い結果となった。SDDはSPDと比較してより侵襲的な治療であり、この結果は妥当である。ドレーンが深部に留置されていることや、時にドレーンの留置が困難であることが SDDに感染が多い原因ではないかと考える。ドレーンの留置位置の間違いが多いことに関しては、ドレーンを血腫の長径に渡って挿入していることや、比較的硬くて丈夫なドレーンを使用したことが原因かもしれない。両者の最終的な予後に有意差がなかったのは、創部感染のほとんどが表層のみに留まったこと、ドレーンによる実質の損傷も一部は無症候性であったことが原因として挙げられる。また、全体の60%の症例が抗血栓薬を使用していたが、再発率には影響を与えなかった。本報告の制限は症例のクロスオーバーが多いこと(6-13%)である。

 慢性硬膜下血腫に対する骨膜下ドレーン留置は従来法の代わりになりうる。創部感染や医原性の脳実質損傷の減らすことも期待できる。

【ひとこと】

 慢性硬膜下血腫手術は色々な方法で行われているが、症例数が多い割に明確な手術法が確立されていない。骨膜下ドレーン留置は安全性の面ではかなり有効に思える。

September 14 2016 “血栓回収療法による血栓組織と有効再開通の関連”

“Histopathologic analysis of retrieved thrombi associated with successful reperfusion after acute stroke thrombectomy”

Hashimoto T, et al.

Stroke. 2016; 47: 3035-3037.

 

【はじめに】

 急性期脳梗塞に対する血栓回収療法は捕捉された血栓の組織病理学的検討を可能にした。Marderらの報告では血栓の構造的特徴は似通っていて、心原性なのか動脈原生なのかは判別困難であるし、単純に赤と白には分けられないとされた。

 近年の報告では、CTでのhyperdense vessel signが赤血球の豊富な血栓を示唆するなど、画像所見との関連も報告されている。本報告では、有効再開通と血栓の組織病理学的特徴の関連について調べた。

【方法】

 当施設(国立循環器病センター)で2010年から2015年に血栓回収療法を実施された142症例を後方視的に検討、有効再開通の定義はTICI 2b以上。

【結果】

 142例中83例が対象となり、58例(70%)で有効再開通が得られた。有効再開通群では女性が少なく(26%vs64%, P=0.001)、Merciを用いた症例が少なかった(17%vs52%, P=0.003)。

 有効再開通群では血栓中にatheromatous gruel(粥腫粥)が存在しない症例が多く(3%vs20%, P=0.024)、赤血球の割合が多かった(57±23%vs47±24%, P=0.042)。赤血球比率の有効再開通のカットオフ値は64%だった(P=0.014, 感度0.509, 特異度0.800)Atheromatous gruelを含む血栓はMerciで捕捉される割合が高かった。

 多系統ロジスティック回帰解析でも、atheromatous gruelの存在と赤血球比率は有効再開通に独立して関与する因子であった。赤血球比率が多い血栓は、心原性脳塞栓症の症例の中だけでも有効再開通率が高い結果であった。

【考察】

 Atheromatous gruelを含む血栓は有効再開通が得られにくい結果であった。Atheromatous gruelは動脈硬化性のプラークによるin situの血栓症で見られると思われ、さらにAtheromatous gruelを含む血栓は、容易に壊れて小さいかけらになってしまうとされており、これらが有効再開通率を下げる結果となった可能性がある。また、動脈硬化性狭窄のある患者への血栓回収療法は血管内皮へのダメージがあり、よくないとの報告もあり、これも結果に関与した可能性がある。

 赤血球比率の多い血栓は有効再開通が得られやすい結果であった。この結果は過去のCTでの血栓のhyperdense vessel signが有効再開通と関与する報告と一致するものである。赤血球比率の高い血栓は粘度や変形能が高いとされ、血栓が破砕されにくいことから、有効再開通が得られやすい可能性がある。

 Limitationは単施設の後方視的研究であること、説得力のあるデータとしては不十分であること、rt-PAの使用の有無が検体へ影響を与えた可能性があること、血栓回収療法の方法は均一化されていないことが挙げられる。

【ひとこと】

 血栓回収療法の普及により血栓の組織学的検討が行われるようになったが、病型診断などに役立つ結果にはまだ乏しい。今後もさらなる検討が必要。

February 05 2020 “頭部外傷患者の気管切開のタイミング”

“Tracheostomy practice and timing in traumatic brain-injured patients: a CENTER-TBI study”

Chiara R, et al.

Intensive Care Med. 2020

 

【はじめに】

 気管切開は人工呼吸器管理期間やICU滞在日数を減少させ、人工呼吸器関連肺炎や気管トラブルを回避すると言われている。頭部外傷後の気管切開の適応は人工呼吸器離脱困難、気道反射の消失、換気量の低下、分泌物の処理困難である。しかしながら、気管切開が有効な頭部外傷患者の適応やそのタイミングについては未だ一定の見解が得られていない。

 慣習的に1週間以内に気管切開を行うことを早い、1週間以降に行うことを遅いと言うが、理想的な気管切開の時期は定まっておらず、1週間前後において死亡率の差は過去の報告でなされていない。

 CENTER-TBI studyのデータをから気管切開のタイミングや関連因子などについて評価した。

 

【方法】

 CENTER-TBI (Collaborative European NeuroTrauma Effectiveness Research in Traumatic Brain Injury) studyはヨーロッパの65施設が参加した前向きデータベースである。気管切開がICUで行われた患者のうち、CTで頭部外傷の診断を受け、受傷より24時間以内に病院を受診していて、72時間以上のICU滞在がある患者が対象となった。除外項目は72時間以内の死亡と72時間未満のICU滞在である。

 Primary endpointは6ヶ月後のGOSE (extended glasgow outcome scale)であり、GOSE4以下は転帰不良とされた。

 気管切開の実施に関与した因子、国や施設間の違い、気管切開の時期の予後への影響について検討した。

 

【結果】

 2138症例中、1358症例が72時間以上のICU滞在を認めた。

 気管切開を行った群と行わなかった群では、主に重症度の差を認めた(GCSが低い、瞳孔不同が多い、酸素化不良が多い、低血圧が多い、ISS (Injury Severity Score)が高い、頭蓋内以外の損傷(特に顔面と胸部)が多い、ICPモニター挿入例が多い、VAPの罹患率が高い、呼吸不全が多い)。

 気管切開までの平均期間は入院から9日間で、6.9%は入院当日に実施された。気管切開の時期をearlyとlateにわけ、early群は高齢で、低血圧の合併・既往が多く、顔面外傷が多かった。Late群はVAPと呼吸不全の合併が多かった。

 Cox回帰分析にて気管切開に至る因子について多変量解析を行うと、年齢、意識障害、瞳孔不同、顔面・胸部外傷、低酸素が気管切開の実施に関わる因子であった。

 また、国間や施設間の差を調べると、多くの施設では1週間以上経過してからの気管切開が多く、またその比率は同じ国の中でも施設によって異なった。

 Early群とlate群でICU死亡率、6ヶ月後死亡率、6ヶ月後GOSEには有意差は認めなかったが、ICU滞在日数と入院日数の短縮が見られた。多変量解析では有意な関連は見られなかったが、変数の捉え方によって(カテゴリー変数もしくは離散変数)、early群と転帰良好との関連が見られたりした。また、気管切開を1日遅らせるごとに4%の転帰不良の危険が、6%の死亡の危険が増加するとの結果も得られた。

 

【考察】

 CENTER-TBI studyに基づいた本研究は頭部外傷患者の気管切開における最大の研究である。

 過去の研究に比べ、本研究は気管切開を行った患者が多く(31.8%)、頭部外傷患者以外の研究と比べて気管切開に至るまでの期間が短い(41%が1週間以内)。

 頭部外傷患者の急性期には頭蓋内病変の管理が最優先されるが、その後は鎮静の終了や人工呼吸器の離脱、リハビリテーションが主な治療となる。そのタイミングでの気管切開が望まれるかもしれない。

 気管切開の適応や時期に関しては未だ施設間の差があるが、本報告も受傷早期の気管切開を推奨する結論となった。過去の論文では死亡率の差が出ているものもあるが、本報告では死亡率の差は見られなかった。

 1日でも早くの気管切開が、転帰不良率や死亡率の観点からは望まれるが、頭部外傷患者の場合は頭蓋内病変の管理に重症だと特に時間がかかることもあり、早期の気管切開に踏み切れない原因となりうる。

 Limitationは多数の評価項目は設けているが、交絡因子による影響は避けられないこと、データベースからのスタディであり、時に記載のないデータがあることであった。

 

【ひとこと】

 超急性期を乗り切ると目を覚ましてきて通常に抜管できる患者も少なくはなく、なかなか気管切開に踏み切るタイミングは難しい。しかしながら肺炎や分泌物コントールの観点では横着せずに気管切開が理想か。

May 06 2020 “血栓回収療法におけるt-PAスキップ”

“Endovascular thrombectomy with or without intravenous alteplase in acute stroke”

Yang P, et al.

N Engl J Med 2020; 382: 1981-1993

 

【要約】

 血栓回収療法の前にt-PAを静注することの効果は一定の見解がない。中国の多施設共同研究で前方循環の主幹動脈閉塞をランダム化してt-PA静注併用の有無で2群に分けた。血栓回収療法前の有効再開通と最終的な有効再開通はt-PA併用群に多かったが、90日後の転帰に差はなかった。

【はじめに】

 t-PA血栓回収療法に与える影響については未だわかっていないが、早期の再開通を促したり遠位塞栓を防いだりする可能性がある。しかしながら近位動脈の血栓はt-PAの効果は限定的であり、場合によっては血栓を一部溶かすことで遠位塞栓を起こしてしまうかもしれない。t-PAは頭蓋内出血の危険をあげることもある。

 過去の報告ではt-PAの併用は関係しないとされているものもあるが、ランダム化研究は限られている。多施設共同前向きランダム化試験でその影響を調べた(DIRECT-MT)。

 

【方法】

 中国国内の41施設が参加。発症4.5時間以内の内頸動脈、M1、M2近位の閉塞が対象。発症前mRS2以上、t-PA禁忌事項に当てはまる症例は除外。アルテプラーゼは0.9mg/kg。血栓回収はステントリトリーバーが第一選択、吸引カテーテルは第二選択。再開通が得られなかった時のアルテプラーゼもしくはウロキナーゼの動注はいずれの群でも許可された。プライマリアウトカムは90日後mRS。

 

【結果】

 (Figure1)1586例のうち、656例が参加。血栓回収療法単独群が326例、併用群が328例。(Table1)2群のベースラインには有意差を認めなかった。95.8%がステントリトリーバーを用いて治療した。中には17例の血栓回収療法が行われなかった症例と、4症例ずつのクロスオーバーを認めた。全身麻酔は32.4%の症例に用いられた。

 (Figrure2)プライマリアウトカムとしての90日後のmRSでは、血栓回収療法単独群の併用群に対する非劣勢が示された。(Table2)その他のアウトカムとして、90日後の死亡率には有意差はなかった。血栓回収療法を行う前に再開通していた症例は7.0%vs2.4%と併用群に多く、最終的な有効再開通(TICI 2b以上)も84.5%vs79.4%と併用群に多かった。

 (Table3)安全性に関して、90日後までの重大合併症、頭蓋内出血性合併症(症候性も無症候性も)、手技に関する合併症は2群とも差はなかった。

 

【考察】

 過去の同様の趣旨の観察研究はバイアスが強いものが多く、本報告はランダム化比較試験を行った。

 t-PAの使用は穿刺までの時間を5分程度しか延長しない結果だった。併用群のうち86.5%の症例はt-PAを打ちながら血栓回収を行っており、本報告はdrip and ship症例には適応しづらいと考えられる。また、脳梗塞の原因がアジア人と非アジア人で異なると言われていることもあり、全世界に共通しているとは言えないかもしれないが、ATBIは6.9%にとどまった。

 Limitationはステントリトリーバーが第一選択であり、標準量のalteplaseしか使用していないこと(ADAPTやcombined techniqueが普及していなかった、tenecteplaseを使用していなかった)、サンプル数が少なく信頼性が高いとは言えないこと、病院前評価が中国はまだ発達していないことが挙げられる。

 t-PAを使わない血栓回収療法は、併用群と比較して非劣勢が示された。他人種やさらに大きいサンプル数での追加試験が望まれる。

 

【ひとこと】

 個人的にはt-PAを使用した方がdistal migrationやembolization in new territoryを起こさないため、いいかと思っていた。出血性合併症の問題がなければ、t-PAを使いたい気持ちもあるが、今後どうなるか。

 

June 06 2018 “入院時の顆粒球/リンパ球比はLVOの予後予測に有用”

“Admission Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio as a Prognostic Biomarker of Outcomes in Large Vessel Occlusion Strokes”

Goyal N, et al.

Stroke. 2018;49:1985-1987.

 

【はじめに】

 入院時の好中球/リンパ球比(NLR)は急性期脳梗塞患者の短期および長期予後の予測に有用である。高いNLRは高い炎症反応を示唆する。血栓溶解療法を実施した患者でのNLR高値は出血性変化の高リスクとされているが、機械的血栓回収療法(MT)についての報告は限定的である。MTの安全性、有効性との関連を調査した。

 

【方法】

 多施設でのデータベースから検討した後方視的研究。対象は2012年1月から2016年6月、血栓溶解・血栓回収の前に検体を採取。安全性のアウトカムは症候性頭蓋内出血、3ヶ月後死亡率、有効性のアウトカムは3ヶ月後転帰良好(mRS 0-2)とした。

 

【結果】

 293症例が対象、症候性頭蓋内出血は21例(7%)に認めた。

 (S-Table1)単変量解析では、有効再開通率とNLRには相関はなかったが、症候性頭蓋内出血群、3ヶ月後死亡群、3ヶ月後転帰不良群でNLRの中央値が高い結果となった(症候性頭蓋内出血: 8.5 vs 3.9; P<0.001、3ヶ月後死亡: 5.4 vs 4.0; P=0.004, 3ヶ月後転帰不良: 4.4 vs 3.6; P=0.033)。3カ月後に機能的に自立した患者ではNLRが低かった(3.7 vs 4.3; P=0.039)。NLRの高値は発症から来院までの時間とLow APECTSに強い相関を示した(P<0.001)が、来院時のNIHSSとは相関を示さなかった。

 (S-Table2,3)ロジスティック回帰分析ではNLRは3カ月後転帰良好や3カ月後転帰不良との相関に有意差はなかった。(S-Table4,5)NLRの1ポイントの上昇は3カ月後死亡にオッズ比1.08(P=0.014)、症候性頭蓋内出血にオッズ比1.11(P=0.006)で関連した。

 (S-Figure1) ROC曲線を引くと、NLRと症候性頭蓋内出血、3ヶ月後死亡との関連が示された(P<0.001, P=0.004)。NLRによる症候性頭蓋内出血と3ヶ月後死亡の予測のためのカットオフ値はそれぞれ6.62 (感度71%、特異度76%)と4.29(感度59%、特異度56%)であった。

 

【考察】

 過去の報告と同様にNLRが高い患者は予後不良であるとの結果であった。本報告はMT後の転帰を検討した最大の報告である。

 脳梗塞発症後はプロテインキナーゼC(PKC)やfocal adhesion kinase(FAK)などの活性化も含めた炎症反応により、BBBの透過性亢進が生じる。また、発症から24時間でMMP-9(マトリックスプロテアーゼ9) の発生に好中球は関与しているとされる。NLRの高値はMMP-9の高値によるBBB破綻と関連し、出血性変化をきたす可能性がある。

 NLRの測定は簡易であり、MT後の転帰だけでなく、脳卒中後の感染症など様々な合併症の予測に有用である可能性がある。実際にPREDICT studyという有効再開通後の転帰不良の予測因子でのスコアリングにも使われている(血栓溶解療法の有無、側副血行路の状態、血糖値、NLR、NIHSS)。

 Limitationは後方視的研究であること、第3機関のチェックを受けていないこと、NLRの変動性の評価をしていないこと、予測されない交絡因子は取り除けていないこと、出血の検出に用いた方法が統一されていないこと、NLRの分布が正規分布でないこと、観察研究であるため因果関係についてははっきりしないことが挙げられた。

 

【ひとこと】

 MTは有効再開通率が高くとも、転帰不良例は一定数いる。今後医療経済的には転帰良好例をより高い確率でピックアップしていくことが必要だろうが、倫理的にも難しい問題。

June 1 2019 “シロスタゾールを使ったDAPT: CSPS.com”

“Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in patients with high-risk ischaemic stroke in Japan: multicentre, open-label, randomized controlled trial”

Toyoda K, et al.

Lancet Neurol 2019; 18: 539-48

 

【はじめに】

 抗血小板薬二剤併用療法(dual antiplatelet therapy; DAPT)は単剤と比較して高い脳卒中予防効果が期待され、実際にアスピリン+クロピドグレルの併用は早期再発のリスクを減らすと報告されている。しかしながら、その長期使用は大出血イベントを増加させてしまう。

 シロスタゾールはホストジエステラーゼ3阻害薬(PDE 3 inhibitor)であり、抗炎症効果や抗増殖効果があり、出血性イベントが少ないと言われている(単剤だとアスピリンの半分とも言われる)。

 CSPS.com(Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination)はアスピリンとシロスタゾール、もしくはシロスタゾール単剤が慢性期の脳卒中予防効果を示し、アスピリンやクロピドグレルより出血性イベントが減らせることを示すことを目的とした。

【方法】

 他施設協同のランダム化比較試験。日本の292施設が登録された。対象は20歳から85歳の非心原性脳梗塞に対して既にアスピリンもしくはクロピドグレル単剤による治療を行われている患者。脳卒中再発の高リスク群である必要があり、それは1)頭蓋内主幹動脈の50%以上の狭窄があるか、2)頭蓋外動脈の50%以上の狭窄があるか、3)Essen Stroke Risk ScoreとFukuoka Stroke Risk Scoreで2つ以上のリスク因子をもつかのいずれかを満たす必要がある。

 アスピリン(81mg or 100mg/d)かクロピドグレル(50mg or 75mg/d)に加えてシロスタゾールは100mgを1日2回投与とした。

プライマリアウトカムは有効性については症候性の虚血性脳卒中とし、安全性については深刻もしくは致死的な出血とした(セカンダリーアウトカムについては割愛)。

【結果】

 期間は2013年12月から2017年3月まで、1879例が対象となった。932例がDAPT群に、947例が単剤群に割り付けられた。フォローアップ期間の中央値は1.4年、半年以内にドロップアウトした例はDAPT群が23%、単剤群が14%であった。

 症候性虚血性脳卒中はDAPT群で3%、単剤群で7%に発生した(p=0.0010)。numbers needed to treatは43であった。全脳卒中、虚血性脳卒中orTIA、心筋梗塞/血管死の合併、全血管イベントはDAPT群で有意に低かった。

 深刻もしくは致死的な出血はDAPT群で1%、単剤群で1%と有意な差を認めなかった。深刻な副作用はDAPT

群で有意に低かった(10% vs 15%, p=0.00017)。

【考察】

 アスピリン/クロピドグレルとシロスタゾールの併用によるDAPTは虚血性脳卒中の再発を半分程度まで減少させた。シロスタゾールはintima-media thickness(IMT)を減少させ、頸動脈プラークの脂質成分や壊死成分を減らすと報告されている。過去の報告ではジピリダモール(PDE 5 inhibitor)がアスピリンとの併用により慢性期の脳卒中予防効果があると言われており、PDE阻害薬の長期で見た脳卒中予防効果が示唆される。

 深刻もしくは致命的な出血性イベントはDAPT群でも単剤群とほぼ同程度であった。これはシロスタゾール併用群が他の多剤併用群より出血率は低かったという、過去のシロスタゾールを用いた多剤併用療法の報告とも一致している。慢性期のアスピリンとクロピドグレルによるDAPTはガイドラインでも推奨されていない。

 Limitationはサンプル数が少なかったこと(4000例が理想であった)、虚血性脳卒中を再発した症例は93例しかいないことが挙げられた。シロスタゾールの頭痛、動悸、頻脈の副作用も、参加者の離脱に関与したと思われる。

【ひとこと】

 脳卒中再発高リスク群の慢性期再発予防にはアスピリン/クロピドグレルにシロスタゾールを加えた抗血小板薬二剤併用療法が有用かつ安全である可能性がある。

 脳卒中再発高リスク群:頭蓋内主幹動脈もしくは頭蓋外動脈の50%以上の狭窄、または二つ以上のリスク因子(65歳以上、高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、末梢血管疾患、脳卒中の既往、虚血性心疾患の既往、喫煙)を満たすもの

FIRST AID Q&A for the USMLE STEP 1, p.55-56  

FIRST AID Q&A for the USMLE STEP 1, p.55-56

 

  1. Meckel憩室=臍腸管(もしくは卵黄管、もしくは卵黄柄)の遺残。「2のルール」があり、2インチ程度で、回盲弁より2フィート口側にあり、2%程度の有病率で、2:1で男に多く、2歳までに発症し、その上皮は2種類である(胃と膵臓)。胃粘膜をもつ場合は潰瘍形成による無痛性の血便を示す。
    Words: radionuclide imaging: 放射線核種画像=RI, diverticulum: 憩室, omphalomesenteric duct: 臍腸管, vitelline duct:卵黄管, yolk stalk: 卵黄柄, ileum: 回腸, umbilicus: 臍, ileocecal valve: 回盲弁, epithelium: 上皮, ectopic: 異所性
  2. 先天性横隔膜ヘルニアの死因は肺低形成である。
    Words: diaphragmatic: 横隔膜, pleuroperitoneal folds: 胸腹膜ヒダ, fuse: 融合
  3. ファロー四徴症(tetralogy of Fallot)は肺動脈狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右心室過形成を特徴とする最も多いチアノーゼを来す疾患である。4-6ヶ月あたりで発症する。Subpulmonary conal semptum(肺動脈弁下円錐)の発達が不十分であることに起因する。
    Words: auscultation: 聴診
  4. 精原細胞(46/2n)→1次精母細胞(46/2n)→(減数分裂)→2次精母細胞(23/2n)→(減数分裂)→精子細胞(23, 1n)
    Words: spermatogenesis: 精子形成, spermatozoa: 精子, seminiferous tubules: 精細管, acrosome: 先体, meiotic: 減数分裂の, morphologic: 形態上の, spermatogonium: 精原細胞, primary spermatocyte: 1次精母細胞, secondary spermatocyte: 2次精母細胞, spermatids: 精細胞, spermatozoids: 精子
  5. 尿膜→尿膜管として発生し、胎児期に膀胱から臍に通じて尿を母体に流す機構であるが、出生児に閉鎖して正中臍索となる。その遺残があると、臍と膀胱の瘻孔があるため感染を繰り返し、尿膜管癌の発生母地となる。

Words: allantois: 尿膜, cloaca: 排泄腔, pelvis: 骨盤, urachus: 尿膜管, medial umbilical ligament: 正中臍索