脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

May 06 2020 “血栓回収療法におけるt-PAスキップ”

“Endovascular thrombectomy with or without intravenous alteplase in acute stroke”

Yang P, et al.

N Engl J Med 2020; 382: 1981-1993

 

【要約】

 血栓回収療法の前にt-PAを静注することの効果は一定の見解がない。中国の多施設共同研究で前方循環の主幹動脈閉塞をランダム化してt-PA静注併用の有無で2群に分けた。血栓回収療法前の有効再開通と最終的な有効再開通はt-PA併用群に多かったが、90日後の転帰に差はなかった。

【はじめに】

 t-PA血栓回収療法に与える影響については未だわかっていないが、早期の再開通を促したり遠位塞栓を防いだりする可能性がある。しかしながら近位動脈の血栓はt-PAの効果は限定的であり、場合によっては血栓を一部溶かすことで遠位塞栓を起こしてしまうかもしれない。t-PAは頭蓋内出血の危険をあげることもある。

 過去の報告ではt-PAの併用は関係しないとされているものもあるが、ランダム化研究は限られている。多施設共同前向きランダム化試験でその影響を調べた(DIRECT-MT)。

 

【方法】

 中国国内の41施設が参加。発症4.5時間以内の内頸動脈、M1、M2近位の閉塞が対象。発症前mRS2以上、t-PA禁忌事項に当てはまる症例は除外。アルテプラーゼは0.9mg/kg。血栓回収はステントリトリーバーが第一選択、吸引カテーテルは第二選択。再開通が得られなかった時のアルテプラーゼもしくはウロキナーゼの動注はいずれの群でも許可された。プライマリアウトカムは90日後mRS。

 

【結果】

 (Figure1)1586例のうち、656例が参加。血栓回収療法単独群が326例、併用群が328例。(Table1)2群のベースラインには有意差を認めなかった。95.8%がステントリトリーバーを用いて治療した。中には17例の血栓回収療法が行われなかった症例と、4症例ずつのクロスオーバーを認めた。全身麻酔は32.4%の症例に用いられた。

 (Figrure2)プライマリアウトカムとしての90日後のmRSでは、血栓回収療法単独群の併用群に対する非劣勢が示された。(Table2)その他のアウトカムとして、90日後の死亡率には有意差はなかった。血栓回収療法を行う前に再開通していた症例は7.0%vs2.4%と併用群に多く、最終的な有効再開通(TICI 2b以上)も84.5%vs79.4%と併用群に多かった。

 (Table3)安全性に関して、90日後までの重大合併症、頭蓋内出血性合併症(症候性も無症候性も)、手技に関する合併症は2群とも差はなかった。

 

【考察】

 過去の同様の趣旨の観察研究はバイアスが強いものが多く、本報告はランダム化比較試験を行った。

 t-PAの使用は穿刺までの時間を5分程度しか延長しない結果だった。併用群のうち86.5%の症例はt-PAを打ちながら血栓回収を行っており、本報告はdrip and ship症例には適応しづらいと考えられる。また、脳梗塞の原因がアジア人と非アジア人で異なると言われていることもあり、全世界に共通しているとは言えないかもしれないが、ATBIは6.9%にとどまった。

 Limitationはステントリトリーバーが第一選択であり、標準量のalteplaseしか使用していないこと(ADAPTやcombined techniqueが普及していなかった、tenecteplaseを使用していなかった)、サンプル数が少なく信頼性が高いとは言えないこと、病院前評価が中国はまだ発達していないことが挙げられる。

 t-PAを使わない血栓回収療法は、併用群と比較して非劣勢が示された。他人種やさらに大きいサンプル数での追加試験が望まれる。

 

【ひとこと】

 個人的にはt-PAを使用した方がdistal migrationやembolization in new territoryを起こさないため、いいかと思っていた。出血性合併症の問題がなければ、t-PAを使いたい気持ちもあるが、今後どうなるか。