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August 3, 2017 “Pial Artery Supply as an Anatomic Risk Factor for Ischemic Stroke in the Treatment of Intracranial Dural Arteriovenous Fistulas”

“Pial Artery Supply as an Anatomic Risk Factor for Ischemic Stroke in the Treatment of Intracranial Dural Arteriovenous Fistulas”

S. W. Hetts, et al.

Am J Neuroradiol 38: 2315-20

 

【背景】

 dAVFは頭蓋内動静脈シャント疾患の10-15%を占める。dAVFによる皮質静脈逆流は出血の大きなリスクとなり治療対象となるが、その自然史や治療によるリスクについては不明な部分も多い。時にdAVFは軟膜からfeederをもつが、その発生についてはよくわかっていない。Pial AVFの血管内治療は25%がのちにdAVFを発症すると報告されている。

 dAVF with pial artery supplyのTAEでは正常動脈還流に塞栓物質が流入する可能性がある。開頭術および血管内治療によるShunt pointの離断も、軟膜動脈の血流減少による血栓症を来す可能性がある。Pial supplyをもつdAVFの治療は合併症としての脳梗塞が多いのではないかと考えた。

【方法】

 UCSFで治療された2008-2015年の122例が登録。

【結果】

 122例中29例(24%)にpial supplyを認めた。Pial-supply群がわずかに高齢で、Borden分類でスコアが高い傾向にあった。Cognard分類や術前mRSはpial-supply群に悪い傾向であったが有意差はなかった。

 70%の症例は血管内治療のみで治療された。Pial-supplyを持つことは治療方針には有意差を持つ影響はなかったが、手術治療の傾向があった。血管内治療においてはpial-supply群は有意にTVEよりTAEが多かった (92% VS 59%)。Pial-supply群は術後DSAでの根治率も有意に低かった(55% vs 76%)。

 主要合併症としては治療関連脳卒中が4例、神経学的脱落所見が6例、その他合併症15例が見られた。Pial-supply群は脳卒中(10% vs 1%)、神経学的脱落所見(14% vs 2%)、その他合併症(28% vs 8%)とすべての項目で有意差を持って多かった。年齢や治療方法を考慮した多変量解析でも有意差を認めた。

【考察】

 dAVF with pial supplyの合併症の高さは複数の誘引が考えられる。液体塞栓物質の軟膜血管への逆流、周術期の凝固亢進、軟膜動脈の逆行性血栓症、出血を伴う鬱血性脳梗塞が挙げられる。現在使われているBorden分類やCognard分類は出血リスクの評価のみであり、治療のリスクについては評価されていない。AVMのSpetzler-Martin分類のように治療リスクの評価が可能なスケールをdAVFにも考えていかなければならない段階まできている。

 dAVFの血管内治療は様々な方法が行われていたが、NBCAの普及から単一の塞栓材料で治療できるようになった。近年では根治性の高いOnyxの出現によりその他の塞栓材料の使用頻度は減少した。Onyxは液体塞栓物質であることから、その動きを完全にコントロールすることはできない。特に頭蓋底でOnyxの視認性が悪い時は困難を極める。Pial arteryをもつdAVFの塞栓術では、実際にはfeederではない動脈へのpial supplyを介した逆流を起こす可能性はある。予防としてはpial supplyの部分のみを先にNBCAで塞栓してしまうという方法も考えられ、dAVFの開頭手術まえに出血予防として行われることもある。しかしこれは同時に軟膜動脈の逆行性血栓症を惹起したり、手技そのものによる塞栓性合併症を起こしたりするリスクを伴う。

 最近の報告ではdAVF with pial supplyは術中出血を33%の症例で起こすというものがある。これは非常に高い数値であり、やはり治療リスクが高いことを示唆する報告である。

【結論】

 dAVFには軟膜動脈をfeederとして引き込むものもある。治療関連の合併症を有意に引き上げる要因であり、治療に際しては特に注意する必要がある。

【ひとこと】

 Pial supplyがあることで虚血性合併症が増えるのは、血行動態的にも理にかなっていると思われる。術中出血に関する報告は33%と非常に高値となっており、次はそれを読む予定。