脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

January 15, 2018 “Intracranial Dural Arteriovenous Fistula with Pial Arterial Supply”

“Intracranial Dural Arteriovenous Fistula with Pial Arterial Supply”

Osada T, et al.

Neurosurgery 0: 1-12, 2018

 

【背景】

 硬膜動静脈瘻(dAVF)は硬膜上にある動脈と静脈/静脈洞の異常シャントである。稀に軟膜動脈から血液供給を受けることがあり、静脈洞閉塞後に発達するとの報告もある。治療の際にも軟膜動脈からの供給がある症例では合併勝率が高いとされている。dAVF with pial arterial supplyをまとめた初の報告である。

【方法】

 2006年1月から2016年12月までの単一施設後ろ向き研究。Direct CCF、spinal dAVF、開頭術後のdAVFは除外。Pial arterial supplyの種類は「軟膜動脈の硬膜枝」と「真の軟膜動脈からの供給」に分けられる。Borden type Iは経過観察、type II/IIIは治療を実施。t検定とMann-WhitneyのU検定及びロジスティック回帰分析を統計に用いた。

【結果】

 204例が登録。平均年齢59.6歳、TSS 72例、CS 46例、テント38例、FM 11例、静脈洞交会7例、円蓋部 7例、ACF 6例、falx cerebri 4例、SSS 4例、中頭蓋窩2例。広範なシャントが2例、複数のシャントが2例含まれていた。

 Pial arterial supplyは23/204例(11.3%)に確認された。テント上dAVFに関しては12/38例(31.6%)と効率に認められた。Pial arterial supplyの有意な予測因子は年齢、テント上dAVF、 血管撮影での静脈拡張の所見の3つであった。17例が軟膜動脈の硬膜枝であり、8例が真の軟膜動脈供給を持っており、2例は両者の混在を見た。

 153例に対してなんらかの治療(主に血管内治療)が行われ。121例が完全閉塞を得た。Pial arterial supplyをもつものに関しては23例中17例が血管内治療を行い、pial arteryのシャントを直接塞栓したものは軟膜動脈の硬膜枝と真の軟膜動脈供給のそれぞれ1例ずつであった。

【考察】

<軟膜動脈の硬膜枝>

 dAVFを認めない症例での生理的な軟膜動脈からの硬膜枝の報告がある。ACAのorbitofrontal branchから出るolfactory branchはophthalmic arteryから出るethmoidal arteryと吻合することがあり、pericallosal arteryとfalx cerebriもつながりをもつことがある。PCAのP2から出るartery of Davidoff and Schechter (ADS)はテントへ血流を供給する有名な硬膜枝であり解剖例でも10%に見られている。SCAからの生理的なテントへの枝も様々な報告がある。AICAの枝であるsubarcuate artery(側頭骨のsubarcuate/petromastoid canalを通る動脈、air cellに通じる)も硬膜を貫通する際に枝を出すことがある。Posterior meningeal arteryがPICA、OA、VA、APhAから分岐することがあるのは有名である。テント上に軟膜動脈の硬膜枝を認めることが多いのは、PCA、SCA、AICA、PICAがテントへの枝を生理的に多数認めていることが原因と考えられる。

<真の軟膜動脈供給>

 真の軟膜動脈供給は既存の枝では説明がつかず、画像的にもcorkscrew-like vesselsと螺旋構造様に見える。血管新生によるものであると仮説が建てられるものの、証明する手立てはない。静脈洞血栓症後に血管新生が起こる報告はあるが、関連は不明である。dAVFに関連する血管新生はvascular endothelial growth factor (VEGF)やhypoxia-inducible factor-1 (HIF-1)が関連していると言われている。静脈拡張(つまり静脈圧上昇)や若年であることがpial arterial supplyの予測因子になったことからも血管新生が軟膜動脈からのシャントに寄与していると伺える。

<治療>

 Pial arterial supplyは治療関連の出血性合併症が多いとの報告があったが、本報告では出血性合併症は認めなかった。Pial arterial supplyを残したまま静脈の導出路を塞ぐことが危険とは考えられているが、本報告では同様の所見で終了した治療もあったものの合併症なしの結果であった。

【結論】

 dAVFの11.3%にpial arterial supplyを認め、若年・テント上dAVF、静脈拡張が関連する因子であった。治療にあたって虚血性合併症を予防するには塞栓物質の脳を還流する血管への逆流に気をつけるべきだ。

【ひとこと】

 「真の軟膜動脈供給」と定義されている血管網は小さいnidusの様に見えることもあるが、両者の定義の違いが難しいところである。Nidusであるならばpial arterial supplyを残してのdrainer塞栓術/離断術は非常に危険な治療となりうる。