脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

January 5, 2018 “Different learning curves between stent retrieval and a direct aspiration first-pass technique for acute ischemic stroke “

“Different learning curves between stent retrieval and a direct aspiration first-pass technique for acute ischemic stroke “

Nishi M, et al.

J Neurosurg 129: 1456-1463, 2018

 

【背景】

 機械的血栓回収療法はMR. CLEAN, ESCAPE, SWIFT PRIME, EXTEND-IA, REVASCAT等の論文で有効性が示されてきた。近年a direct aspiration first-pass technique (ADAPT)での吸引カテーテルを用いた血栓回収療法もstent retriever (SR)との非劣勢が示されてきているが、それらのstudyは洗練された技術を持つ大施設で行われている。SRとADAPTのラーニングカーブを比較した。

【方法】

 小倉記念病院で2013年12月から2016年2月までに血栓回収療法を施行された症例を対象とした。SR群とADAPT群に分けた。2014年9月から2015年3月まではADAPT、2015年4月から2016年1月まではSRで治療を行い、それ以外は症例によって適応を決定した。

PCAとBAを含めた主幹動脈が対象で、ASPECTS 5点以下、出血性梗塞、NIHSS 4点以下、発症から8時間以上経過は除外された。End pointは90日後mRS 0-2、TICI 2b以上を有効再開通とした。NIHSS 4点以上の上昇を伴う36時間以内の出血は症候性頭蓋内出血とした。

ラーニングカーブはチーム及びそれぞれの術者の再開通率、手技時間、出血性合併症で評価した。

【結果】

 96例が対象となり、7例が除外された。89例中45例が SR、44例が ADAPTで治療された。SR群はADAPT群より年齢が低く、ICA閉塞とtandem occlusionはADAPT群に多く、M1閉塞はSR群に多かった。SR群の方が再開通率は高く(84% vs 65%)、手技時間も短かった(42min vs 76min)。追加治療もADAPTに多い結果であった(9% vs 31%)。転機良好群(mRS 0-2)は有意差はないがSR群に多かった(49% vs 34%)。

 学習効果に関しては時系列順に3グループに分けてチーム、個人で評価した。チームとしても個人としてもSRの方が手技時間の学習効果が高い結果となった(チーム:SR 60min→47min→21min, ADAPT 93min→66min→63min、個人:SR 62min→42min→27min, ADAPT 91min→99min→53min)。

【考察】

 本報告ではSRがADAPTより有意に再開通率、手技時間、追加治療率が良い結果となった。また、SRの方が少ない手技回数で上達しうると示唆された。過去の報告と比べるとSRの臨床成績は遜色ないが、ADAPTはやや劣る結果となった。近年ADAPTがSRに劣らないと証明する報告は多数あるが、どれも大施設での症例数の多い報告である。また、血管内治療の学習効果についても多数報告があり、経験による手技や臨床成績の向上は示されている。本報告の結果を踏まえると、ADAPTは経験症例の多い大きい脳卒中センターでは手技も洗練されていい結果をもたらすと考えられるが、各個人の経験症例の少ない脳卒中センターでは学習効果が高く臨床成績も優れるSRが優先されるべきと考えられる。

 Limitationは単一施設後ろ向き研究であること、盲検化されていないこと、適応によって症例にやや偏りがあることなどである。

【ひとこと】

  経験症例数が少ない施設に焦点を当てた研究で、目の付け所が面白いと感じた。