脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

June 1 2019 “シロスタゾールを使ったDAPT: CSPS.com”

“Dual antiplatelet therapy using cilostazol for secondary prevention in patients with high-risk ischaemic stroke in Japan: multicentre, open-label, randomized controlled trial”

Toyoda K, et al.

Lancet Neurol 2019; 18: 539-48

 

【はじめに】

 抗血小板薬二剤併用療法(dual antiplatelet therapy; DAPT)は単剤と比較して高い脳卒中予防効果が期待され、実際にアスピリン+クロピドグレルの併用は早期再発のリスクを減らすと報告されている。しかしながら、その長期使用は大出血イベントを増加させてしまう。

 シロスタゾールはホストジエステラーゼ3阻害薬(PDE 3 inhibitor)であり、抗炎症効果や抗増殖効果があり、出血性イベントが少ないと言われている(単剤だとアスピリンの半分とも言われる)。

 CSPS.com(Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination)はアスピリンとシロスタゾール、もしくはシロスタゾール単剤が慢性期の脳卒中予防効果を示し、アスピリンやクロピドグレルより出血性イベントが減らせることを示すことを目的とした。

【方法】

 他施設協同のランダム化比較試験。日本の292施設が登録された。対象は20歳から85歳の非心原性脳梗塞に対して既にアスピリンもしくはクロピドグレル単剤による治療を行われている患者。脳卒中再発の高リスク群である必要があり、それは1)頭蓋内主幹動脈の50%以上の狭窄があるか、2)頭蓋外動脈の50%以上の狭窄があるか、3)Essen Stroke Risk ScoreとFukuoka Stroke Risk Scoreで2つ以上のリスク因子をもつかのいずれかを満たす必要がある。

 アスピリン(81mg or 100mg/d)かクロピドグレル(50mg or 75mg/d)に加えてシロスタゾールは100mgを1日2回投与とした。

プライマリアウトカムは有効性については症候性の虚血性脳卒中とし、安全性については深刻もしくは致死的な出血とした(セカンダリーアウトカムについては割愛)。

【結果】

 期間は2013年12月から2017年3月まで、1879例が対象となった。932例がDAPT群に、947例が単剤群に割り付けられた。フォローアップ期間の中央値は1.4年、半年以内にドロップアウトした例はDAPT群が23%、単剤群が14%であった。

 症候性虚血性脳卒中はDAPT群で3%、単剤群で7%に発生した(p=0.0010)。numbers needed to treatは43であった。全脳卒中、虚血性脳卒中orTIA、心筋梗塞/血管死の合併、全血管イベントはDAPT群で有意に低かった。

 深刻もしくは致死的な出血はDAPT群で1%、単剤群で1%と有意な差を認めなかった。深刻な副作用はDAPT

群で有意に低かった(10% vs 15%, p=0.00017)。

【考察】

 アスピリン/クロピドグレルとシロスタゾールの併用によるDAPTは虚血性脳卒中の再発を半分程度まで減少させた。シロスタゾールはintima-media thickness(IMT)を減少させ、頸動脈プラークの脂質成分や壊死成分を減らすと報告されている。過去の報告ではジピリダモール(PDE 5 inhibitor)がアスピリンとの併用により慢性期の脳卒中予防効果があると言われており、PDE阻害薬の長期で見た脳卒中予防効果が示唆される。

 深刻もしくは致命的な出血性イベントはDAPT群でも単剤群とほぼ同程度であった。これはシロスタゾール併用群が他の多剤併用群より出血率は低かったという、過去のシロスタゾールを用いた多剤併用療法の報告とも一致している。慢性期のアスピリンとクロピドグレルによるDAPTはガイドラインでも推奨されていない。

 Limitationはサンプル数が少なかったこと(4000例が理想であった)、虚血性脳卒中を再発した症例は93例しかいないことが挙げられた。シロスタゾールの頭痛、動悸、頻脈の副作用も、参加者の離脱に関与したと思われる。

【ひとこと】

 脳卒中再発高リスク群の慢性期再発予防にはアスピリン/クロピドグレルにシロスタゾールを加えた抗血小板薬二剤併用療法が有用かつ安全である可能性がある。

 脳卒中再発高リスク群:頭蓋内主幹動脈もしくは頭蓋外動脈の50%以上の狭窄、または二つ以上のリスク因子(65歳以上、高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、末梢血管疾患、脳卒中の既往、虚血性心疾患の既往、喫煙)を満たすもの