脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

March 8 2019 “BRATの10年後解析”

“Ten-year analysis of saccular aneurysms in the Barrow Ruptured Aneurysm Trial”

Spetzler RF, et al.

J Neurosurg 2019; epub ahead.

 

【はじめに】

 Barrow Ruptured Aneurysm Trial(BRAT)は嚢状脳動脈瘤に対するクリッピングとコイル塞栓術を比較した試験である。そもそもの目的はInternational Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)との比較を目的に行われたものであるが、その10年後解析が出たため報告する。

【方法】

 ArizonaにあるSt. Joseph’s Hospital and Medical Centerにて2003年3月から2007年1月の間に治療された非外傷性くも膜下出血患者が対象。1:1にクリッピング群とコイル群にわけ、血管形態の評価後、実際の治療に関しては術者による変更(crossover)を許容する。

【結果】

 嚢状脳動脈瘤は非外傷性くも膜下出血患者471例中362例(76.8%)に認めた。181例ずつ各群に割り付けたが、それぞれの群で3例ずつ治療前に死亡した。また、クリッピング群から1例(<1%)をコイル群に、コイル塞栓術群から64例(36%)をクリッピング群にcrossoverした。

 mRS score >2のpoor outcomeの数は両群で優位さを認めなかった。コイル群に2例のSAH再発を認めたが、1例は初回治療と異なる動脈瘤からの出血であった。クリッピング群ではSAHの再発は認めなかった。再治療はクリップ群で2例(<1%)、コイル群で23例(20%)と有意差を持ってコイル群が多かった(p<0.001)。動脈瘤の完全閉塞に関しては治療直後よりコイル群が少なく、時間経過と共にコイル群での完全閉塞はさらに減少した。前方循環と後方循環で分けて調査すると、治療1年後のみクリッピング群のmRS >2のpoor outcomeが多いという結果になったが、3年後以降の調査では両群の有意差は消失した。

【考察とまとめ】

 BRATでは両群間でのcrossoverを認めているが、現在の血管内治療の進歩を考えると、コイル群からクリッピング群へのcrossoverは現在の状況で同様の試験をやれば減るだろう。またISATでは開頭術を行っても3%がクリップをかけられなかったことや、発症からクリッピング群の割付までの時間が長い(BRATは前例24時間、ISATはクリッピング群がコイル群より15時間長い)ことによる再出血のリスクが生まれることがネックであり、BRATはその点を改善している。クリッピングの高い閉塞率を誇り、SAHの再発は治療から時間の経過した2例に起こっていた。これは時間経過と共にコイル群の閉塞率が下がり、再出血率が上がることが予想されたが、10年の経過で見てもクリッピング群とコイル群に有意差は生まれなかった。

【ひとこと】

 ISATと並んでくも膜下出血に対するクリッピングとコイルを比較した有名な試験であるBRAT。SpetzlerとZabramskiという卓越した術者によるクリッピングの質を保障した上で血管内治療と比較した論文。閉塞率や再治療率についてはクリッピングに軍配があがるものの、死亡率やmRSには影響を与えない。低侵襲のコイルがファーストチョイスになる未来は近いかもしれない。