脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

September 10 2007 “病変周囲のT1高信号は海綿状血管奇形の鑑別に役立つ”

“A T1 hyperintense perilesional signal aids in the differentiation of a cavernous angioma from other hemorrhagic masses”

Yun TJ, et al.

AJNR Am J Neuroradiol 2008; 29: 494-500.

 

【はじめに】

 海綿状血管奇形は分葉状かつ球状の先天性血管奇形であり、その発展の様々な過程で出血を来す。初診時は30%が出血例であるが、年間出血率は諸説ある(1−6.8%)。MRIが診断に有用であり、mixed signal intensity core、popcorn ball appearance、T2 blooming sign(病変を取り囲むT2低信号の辺縁)などが特徴的であり、50-67%程度を検出できるとされている。典型的なものの診断は容易だが、時に非典型的な画像を示すものは、脳腫瘍と誤診されることがある。強い造影効果を示すもの、周囲の強い血管性浮腫やmass effect、嚢胞状病変、最近の出血の顕在化は非典型的な所見であり、特に直近の出血は脳腫瘍との鑑別に苦労する。病変周囲のT1高信号域をもつ出血性病変の症例を経験したため、その診断的意味に関して考察する。 

【方法】

 72例の急性/亜急性の出血性腫瘤性病変を後方視的に検討(海綿状血管奇形29例、膠芽腫13例、oligodendroglioma 1例、転移性脳腫瘍16例、脳内出血13例)。1.5TのMRIを使用し、2人の放射線科医が病変周囲のT1高信号を評価した。

【結果】

 海綿状血管奇形29例中18例(62%)、転移性脳腫瘍16例中1例(6.3%)に病変周囲のT1高信号がみられた。T1高信号域は深部病変や血腫周囲に目立ったが、転移性脳腫瘍の症例については周囲の浮腫の部分にT1高信号がみられ、異なるパターンを呈した。信号値を体側と比較すると、病変周囲のT1高信号域を認める海綿状血管奇形の症例については体側の白質と比較して有意に高い値であった(T1 signal Intensity Ratio: 1.06+-0.15, p=.045)。、また、T1高信号域を認める症例については血管原性浮腫の容積が有意に多かった(p=.001)が、血腫の容積や造影域の有無については関連を認めなかった。病変は大脳半球に多く(18例中16例)、発症からの時間が短いほうがT1高信号域を認める傾向にあったが、有意差はなかった(p=.06)。18例中14例が手術加療により病理学的検討がなされている。全例が周囲の白質に顕微鏡下の出血を認めており、ヘモジデリン沈着に加えて11例は鉄貪食細胞の浸潤を、13例は膠細胞の増加を認めた(gliosis)。

【考察】

 病変周囲のT1高信号域は出血発症の海綿状血管奇形の62%にみられ、感度特異度共に高かった(95%: 98%)。出血や腫瘍に伴う脳浮腫は典型的には血管原性浮腫であり、脳組織に水を引き込んだ結果T2高信号・T1低信号となるため、これでは病変周囲に起きるT1高信号域は説明がつかない。

 血管原性浮腫とはBBBの浸透性が上がることにより起き(機能不全など)、細胞外組織に水分がたまる現象である。出血に伴う周辺脳の浮腫はその機序が完全に解明されたわけではないが、静水圧や血腫による牽引、凝固能の亢進やトロンビンの形成、赤血球の溶血、ヘモグロビンの毒性などが関与していると考えられている。腫瘍周囲の浮腫は腫瘍血管の発達による毛細血管浸透圧の上昇、細胞同士を繋ぐtight junction proteinの低発現、アクアポリン4(細胞膜の水チャネル)の高発現などが関与していると考えられている。

 海綿状血管奇形の血管は正常血管と構造が異なり、内皮細胞の開窓、内皮細胞のギャップ結合の大きさ、基底板の欠如、星状細胞足突起の欠如、周囲細胞の減少などが特徴である。これらがBBBの機能不全を引き起こし、慢性的な赤血球の血管外漏出に繋がり、周辺脳実質への微小出血に繋がった可能性がある。

 本報告から、病変周囲のT1高信号域は周辺浮腫の大きさに関連があることと、組織学的に浮腫形成時の赤血球や血漿の血管外漏出が関連している可能性が高いことがわかり、海綿状血管奇形に起因する顕在している出血に関連することが予想された。海綿状血管奇形においても出血例の方が非出血例よりBBBの機能低下があるとも言われており、これも今回の結果をサポートするものである。

 出血発症の海綿状血管奇形は周辺浮腫を含むことや様々な造影結果を示すことから、悪性脳腫瘍からの出血との鑑別が困難なことがある。全例に認められるわけではないが、病変周囲のT1高信号域は特異度が高い海綿状血管奇形を鑑別するポイントとなる可能性がある。

 Limitationは出血発症の腫瘤性病変の中でも膠芽腫、oligodendroglioma、転移性脳腫瘍のみを評価していることと、画像が確認できなかった症例が少なからずあることである。

【結論】

 病変周囲のT1高信号域は出血発症の腫瘤性病変の中から海綿状血管奇形を鑑別するのに有用であり、それを認めた際には海綿状血管奇形の診断が提案されるべきである。

【ひとこと】

 そうでない症例を経験したため、一概にそうとは言えないだろう。