脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

June 5 2018 “脳静脈血栓症に対する血管内治療の戦略”  

 

“Current endovascular strategies for cerebral venous thrombosis: report of the SNIS Standards and Guidelines Committee”

SK Lee, et al.

J Neurointervent Surg 2018; 10: 803-810

 

【はじめに】

 脳静脈血栓症 (cerebral venous thrombosis; CVT) は全脳卒中の1%未満と稀な疾患だが、頭痛から昏睡まで幅広い臨床症状を呈することがある。MRIやMRVによって以前と比べ早期診断が可能となったが、治療後の予後は様々である。

 過去の本疾患に対する知見のレビュー、及び推奨される治療戦略について述べた。

【方法】

 Society of Neurointerventional Surgery (SNIS)の標準治療&ガイドライン委員会が種々の英文報告を元に編集した。

【疫学】

 成人のCVTの発生率は1.32/10万人年である。中年女性に多く、18歳未満にはやや少ない。プロテインC/S欠乏症、アンチトロンビン 欠乏症、第V因子Leiden変異(活性化プロテインC抵抗性)などの遺伝性血栓素因は25-35%に見られる。経口避妊薬の内服はリスクを4-7倍にする。しかし、15%程度はリスク因子や血栓素因がないにも関わらず発症する。

【自然暦】

 CVTの自然暦に関する報告は限られている。多くのCVTの報告は抗凝固薬を用いた後の経過であり、抗凝固薬を用いない報告は過去のものに限定される。それによると抗凝固薬を用いなかった場合の死亡率は14-40%とされている。

【診断】

 CVTの症状は多様であり、患者の年齢や発症から受診までの期間、血栓の位置や大きさに左右される。一般的な症状は頭痛、神経学的脱落所見、けいれん発作、びまん性脳症であるが、稀に海綿静脈洞症候群や昏睡を引き起こす。

<CT>

 古典的なCVTのCT像とは閉塞した静脈洞や静脈の高吸収化と脳浮腫である。9-39%は頭蓋内出血を来す。単純CTでの診断は感度30-100%、特異度83-100%と報告されている。造影CTではSSSの血栓で見えるempty delta signが知られている。

<MRI>

 T1, T2では出血時期によって様々な像を示すが、T2*やSWIはCVT診断に非常に有用である。DWIやADC mappingでCVTによる静脈性梗塞も診断しうる。血管性浮腫はADC high(T2 shine through)で可逆性の変化であるのに対して、細胞性浮腫はADC lowの不可逆性の変化である。単純MRIは感度72-84%、特異度90-95%とCTよりCVT診断に優れた方法である。造影剤を用いればさらに有効である(感度93%、特異度100%)。

<CT/MR venography>

 CT/MRI両者の静脈造影は非常に有効であり、感度特異度共に75-100%である。Time-of-flight MRVなら造影剤を必要としないが、低形成と血栓閉塞を見極めることが難しく、その点で造影による3D-MRVの方が有用である。

<DSA>

 DSAはその時間分解能により解剖学的な疾患理解のみならず、側副血行路などの生理学的な評価も可能である。しかし現状はMRIなどの非侵襲的な検査で診断されることがほとんどである。海綿静脈洞や細い血管(internal cerebral vein、thalamostriate vein, basal vein of Rosenthalなど)の評価には適しているかもしれない。

【治療】

 CVTの治療目標は血栓化の進行予防、静脈還流の再開通、再発予防のための凝固異常素因への対策である。第一選択は抗凝固薬である。その他の治療は抗凝固薬の効果が乏しい場合の代替案となる。しかしながら、International Study on Cerebral Venous and Dural Sinus Thrombosisの結果では抗凝固薬を使用していても約13%が死亡もしくは要介護の転帰となっており、新たな戦略の検討が望まれる。

<抗凝固療法>

 2つのランダム化比較試験が抗凝固薬の効果を示している。一つはEinHauplらの未分化ヘパリンを用いた報告であり、3000単位ボーラス投与の後にAPTT 2倍から120秒以下を目標に管理した(おおよそAPTT 80-100秒程度)。20例の登録で未分化ヘパリン使用群が優位に転帰が良かったため中止になったが、その症例数の少なさや発症からランダム化まで時間が経っていることから、バイアスがかかっているのではないかと指摘もされている。もう一つはBousserらのNadroparin(ヘパリンCa)の皮下注射を用いた報告であり、安全性は示すことができたが、有意差を持って有効性を示すことができなかった。180単位/kg/dを1日2回に分けて皮下投与するプロトコールであった。ヘパリン全身投与の安全性と有効性を示唆する報告から、CVT治療の第一選択として残っている(頭蓋内出血の有無に関わらず使うことができる)が、高いレベルのエビデンスはないのが実情である。

<ICPモニタリング>

 TCDは非侵襲的にICPの予測が可能であるが、正確性に欠けると言われる。脳室ドレナージや脳室腹腔シャント術の有効性に関しては諸説あり、抗凝固薬の使用を考えるとさらに複雑となる。

<減圧開頭術>

 脳ヘルニアをきたすような巨大な占拠性病変がある場合には開頭減圧術や血腫除去術を行う。入院から12時間以内の手術と若年が術後転帰良好の因子である。重症例に対する開頭減圧術の適応や血管内治療との兼ね合いに関しては一定の見解はない。

【血管内治療】

<適応>

 CVTに対する血管内治療は抗凝固薬不応例、重度の意識障害・昏睡の例、深部静脈の閉塞例、後頭蓋窩病変症例、抗凝固薬の使用不可症例(その他の出血など)が適応となる。しかしながら、その適応についてはさらなる議論が必要ではある。

<Technique>

 まずは4Fr or 5Frで診断を行う。6-8Frのシースを大腿静脈に留置、ガイディングカテーテルは通常内頸静脈に導入するが、場合によっては横静脈洞や静脈洞交会まで導入する。治療デバイスの安定性を測るためにDACを利用するのも考慮される。

-局所血栓溶解療法-

 VinesとDavisが最初にウロキナーゼを用いた血栓溶解療法を提唱し、1988年にScottらがカテーテルを用いた局所血栓溶解療法を報告した。その後様々な薬剤を用いた治療が報告されており、いずれも良好な転帰を辿っている。巨大血栓症例に関してはマイクロカテーテルを留置したまま抗血栓薬の持続注射が有効であった報告もある(rt-PAを1-2mg/hで投与し、12-24時間おきにDSAを実施する)。血栓溶解療法はその他の血栓回収療法と併用することも可能である。

-吸引カテーテル-

 大口径の吸引カテーテルを用いた血栓回収療法がCVTに対して行われてきている。このテクニックの単独でも使用できるが、ステントリトリーバーと併用して使用することもある。

-ステントリトリーバー-

 ステントリトリーバーを用いた報告は様々あり、違ったデバイスを使用したり局所血栓溶解療法を併用したりこともある。吸引カテーテル血栓を吸引する際に、吸引カテーテルが落ちないようアンカーとして利用する場合もある。ステントリトリーバーで回収した血栓は吸引カテーテルやガイディングカテーテルから持続的に吸引することで体外に回収する。

-バルーンを用いた血栓回収療法-

 バルーンを血栓閉塞した静脈洞を通過させ、膨らませてから吸引カテーテルやガイディングカテーテルまで引き戻してくる治療である。局所血栓溶解療法と併用して使用することもある。3-4Fr Fogartyカテーテルがデバイスとしては適切だが、さらにlow profileで柔らかいバルーンも有効であると報告されている。

-バルーンを用いた血管形成術及びステント留置-

 血栓回収療法がうまくいかなかった際のレスキューとして用いる。血管内治療の第一選択としては用いない。

-AngioJet-

 流速の早い生理食塩水を用いてカテーテル内に血栓を吸引するデバイスであり、そのデバイスの硬さや太さから、初回の再開通のために用いられることが多い。その他のデバイスと比較して再開通率や転帰はあまりよくないとの報告もある。

 ほとんどのCVT患者において全身ヘパリン化は血管内治療前に実施されるが、術中ACT測定が血管内治療中には必要となる。目標値は250-300秒程度であり、有効かつ安全な血管内治療と術後再閉塞の予防には必須である。

 報告例が少ないものの、血管内治療による完全もしくは部分再開通は転帰の改善に寄与すると考えられる。血管内治療の主な目的は血栓閉塞した静脈洞に順行性の血流を戻すことで、うっ血や静脈圧上昇を解除することにある。

【ひとこと】

 多彩な症状を来し、まずは診断に苦慮することもある疾患である。血管内治療に踏み切るタイミングについては迷うものがあったが、上記の適応症例に対しては速やかに血管内治療に踏み切ることが重要ではないかと考えられる。