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November 3 2017 “Dual antiplatelet therapy in aneurysmal subarachnoid hemorrhage: association with reduced risk of clinical vasospasm and delayed cerebral ischemia”

“Dual antiplatelet therapy in aneurysmal subarachnoid hemorrhage: association with reduced risk of clinical vasospasm and delayed cerebral ischemia”

Nagahama Y, et al.

J Neurosurg 129: 702-710, 2018.

 

【背景】

 くも膜下出血(SAH)は全脳卒中の2-5%を占める疾患であり、かつ非常に予後が悪い。SAH後の血管攣縮は画像上は70%程度に見られ、症候性のものも20-40%に渡る。神経症候を伴いかつ画像上虚血所見を示すものをdelayed cerebral ischemia(DCI)と定義するが、DCIはSAH後30%に発生し、初回出血を生存した患者の機能予後に大きく寄与する。

 SAH後の血管攣縮の病態生理は複合的な関与があるとされている(凝固亢進や炎症反応など)が、過去の報告で様々な抗血小板薬や抗凝固薬の攣縮予防効果について議論されている。アスピリンとクロピドグレルの2剤を用いた攣縮予防効果について報告する。

【方法】

 単一施設の後方視的研究。2009年7月から2014年4月までの動脈瘤破裂によるSAHで、Hunt & Hess Grade I-IIIの症例。通常通りの再破裂予防治療が行われたが、ステントやフローダイバーターを使用した際はtirofibanを術中〜術後に使用し、かつアスピリンとクロピドグレルをローディングした。術後は全例でニカルジピン持続静注が行われた。画像上の血管攣縮に関しては狭窄が75%以上をsevere、25-75%をmoderate、25%未満をmildとした。症候性血管攣縮は神経所見とperfusion CTで血流低下部位を伴うもの、DCIは神経所見とCT/MRIでの虚血巣を伴うものとした。

【結果】

 312例中161例が対象となり、85例がステント及びフローダイバーターを用いてDAPTが使用された。残りの76例は抗血小板薬は使用されなかった。2群のcharacteristicsでは女性がDAPT群に多く、Acom瘤がコントロール群に、IC動脈瘤がDAPT群に多かった。

 症候性血管攣縮はDAPT群に有意に少なかった(OR 0.303)。他要素を補正してもOR 0.244とDAPT群が優位であった。DCIもDAPT群に少なく(OR 0.04)、他要素を補正してもやはりOR 0.056であった。

 高齢(65歳以上)であることと血管攣縮が起こることは臨床的予後不良に寄与しており、コントロール群と比してDAPT群は有意に予後良好であった。

【考察】

 DCIはSAHの予後不良に関わる重要な因子であり、いわゆる血管攣縮だけではなく、血小板凝集や凝固亢進、炎症反応などの複合的な要因が関与しているのではと言われている。本報告はDAPTを用いたアグレッシブな抗血小板療法を採用している点や、perfusion CTを用いて血流評価を行っている点が特徴的である。

 血小板は様々なサイトカインに富んでおり、SAHによる血小板機能活性化や凝集はこれらのサイトカインの放出に関与しており、DCI症例では血漿中のサイトカイン濃度が高いことが報告されている。過去の報告からは抗血小板薬のDCIや血管攣縮への予防効果が期待される。Dorhout Meesらの報告で単剤の抗血小板薬がDCIを減らし、予後を改善すると言われたが、有意差は認められなかった。本報告はステント及びフローダイバーター症例のみにDAPTを使用しているという限定的な条件下ではあるものの、DAPTのDCIや血管攣縮に対する予防効果の有効性を証明することができた。

【結論】

 DAPTはSAH後の血管攣縮、DCIの予防効果が高いと思われるが、さらに大きな研究がその有効性の証明には必要だ。

【ひとこと】

 DAPTと抗血小板薬フリーの症例を比較しているが、DAPT群はステント留置後なので止むを得ずDAPTを入れているという状況でもある。我々の施設ではオザグレル+シロスタゾールでDAPTとしているが、確かなDCI予防効果を感じる。抗血小板薬のDCI予防効果はほぼ確定的だろうが、今後様々な研究デザインがなされそう。