脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

June 22 2018 “未破裂中大脳動脈瘤の手術成績”

“Microsurgical treatment of unruptured middle cerebral artery aneurysms: large, contemporary experience”

Nussbaum ES, et al.

J Neurosurg 130: 1498-1504, 2019

 

【背景】

 1990年代前半に脳動脈瘤に対するコイル塞栓術が導入されて以降、バルーンやステント、フローダイバーターなどデバイスの発達により同治療は急速に普及している。MCA動脈瘤はその特性から直逹手術が多く行われてきたが、近年はコイル塞栓術も徐々に増えてきている。未破裂MCA動脈瘤の手術成績について検討した。

【方法】

 Minnesota州のNational Brain Aneurysm Centerで1997-2015年に手術した未破裂MCA動脈瘤の症例が対象。顕微鏡下操作は著者が全て行った(単一術者)。通常のpterional approachで行っており、モニタリングは使用しなかった。全例で術中DSAによる確認が行われた。

【結果】

 716例、750動脈瘤に対して手術が行われた。その殆どが単一の動脈瘤(95.9%)であり、女性が有意に多かった(71.5%)。中にはSAHの既往がある症例(4.7%)や血管内治療後(3.2%)の症例も含まれた。86.5%が10mm以下のsmall aneurysmであったが、3.5%に25mm以上のgiant aneurysmを認めた。治療は90.3%がクリップされており、7.0%にバイパスを併用した。3.0%はラッピングに留まった。99.6%の患者が退院時のmRS 0と記録された。術中破裂は0.4%。合併症としてはバイパス閉塞(0.1%)、穿通枝損傷(0.3%)、てんかん発作(0.6%)、一過性脳虚血発作(0.6%)、深部静脈血栓症(0.8%)、創部感染(0.3%)、側頭筋腫脹(1.5%)を認めた。

【考察】

 現在多くの脳動脈瘤において「低侵襲」という理由で血管内治療が行われているが、実際に安全かつ有効な治療であるかどうかは疑問が残る部分もある。過去のMCA動脈瘤に関する報告でも直逹手術は素晴らしい成績を残しているものが多い。一方で血管内治療による治療成績も多く出されているが、動脈瘤の閉塞率は決して高くはなく、再発や合併症もある程度きたしているのが現状である。高齢者、動脈瘤の強い石灰化、動脈瘤の位置や形状など、症例によっては血管内治療が優れていることもあるだろう。しかし直逹手術が高い閉塞率、低い合併症を誇っていることからは、直逹手術を第一選択として考えるべきではないだろうか。単一施設の単一術者による後方視的検討であることはlimitationである。

【結論】

 ここ20年での血管内治療の進歩は目覚ましいものがあるが、MCA動脈瘤に関してはリスクの高い症例を除いて直逹手術を推奨するデータとなった。

【ひとこと】

 単一術者で716例と非常に尖った論文だが、その合併症率の低さには目を見張る。再発率や治療後の抗血小板薬継続について考えると直逹手術の利点は大きいと考える。