脳神経外科てきとうjournal club

読み癖をつけるために

December 5 2016 “海綿状血管奇形以外での病変周囲T1高信号域”

“Perilesional hyperintensity on T1-weighted images in intra-axial brain masses other than cavernous malformations.”

Nabavizadeh SA, et al.

J Neuroimaging 2017; 00: 1-6

 

【はじめに】

 脳実質内の腫瘤の正確な診断は治療方針を建てる上で非常に重要だ。海綿状血管奇形は内部のまばらな信号域と辺縁のT2低信号を特徴とするが、急性期の出血例では病変周囲の浮腫がありその他の腫瘤性病変と鑑別が困難となることがある。Yunらが既に病変周囲のT1高信号域が海綿状血管奇形をその他の病変と鑑別する上で有用であると報告しているが、我々はその他の病変においてもT1高信号域を呈する経験があり、それらを検証した。T1強調画像で体側の実質と比較して高信号な病変を認めれば、定性的T1高信号域とし、病変辺縁の1cm以内の部位に25mm2のROI(Region of Interest)として定め、正常脳に125mm2のコントロールをおいて比較することで定量的T1高信号域とした。

【方法】

 実質内病変の症例を後方視的に検討した。282例中218例が対象となった。海綿状血管奇形が44例、25例が非悪性の脳内出血、71例の転移性脳腫瘍、46例の神経膠腫、18例の中枢神経原発リンパ腫、14例の脳膿瘍患者が含まれた。2人の放射線科医が盲目的に画像を検証、統計に加えて病理学的な検討も行った。

【結果】

 病変周囲のT1高信号域は転移性脳腫瘍の9%、海綿状血管奇形の16%、非悪性の脳内出血の4%に認められ、神経膠腫やリンパ腫、膿瘍には認めなかった。ANOVAの解析では海綿状血管奇形が有意にT1高信号域を伴う率は高かった。非出血発症の症例においてT1高信号域を伴うものはなかった。T1高信号域を伴うもののうち、2例の海綿状血管奇形の症例を除く全例が病変周囲の浮腫を伴った。T1高信号域の大きさはほとんどの症例においては血管原性浮腫の大きさに関連したが、海綿状血管奇形の2例のみが例外であった。

 海綿状血管奇形において、T1高信号域は感度が16%、特異度が94%、陽性的中率が38%、陰性的中率が84%であり、転移性脳腫瘍においては9%、94%、57%、56%であった。

 9例が病理学的検討を行うことができた(検体不良などを除いた)。5例が海綿状血管奇形で4例が転移性脳腫瘍であった。このうち2例がT1高信号域を認めたが、病理学的な違いを見つけることができなかった。しかし、T1高信号域を示す部位は血管の密度が高い傾向にあった。

【考察】

 海綿状血管奇形は他の病変よりT1高信号が強い傾向にあったが、脳内出血でも同様の所見のあるものもあった。T1高信号域は急性期の出血を認めた症例にのみ認められており、これは過去の報告とも一致した。過去の報告では海綿状血管腫の62%にT1高信号域を認めたとあったが、本報告では16%に留まった。

 海綿状血管奇形は洞状の血管構造が脳実質を介さずに結合式の中に埋め込まれている。密着結合や周皮細胞が減少し、出血や血管外漏出をきたしているとも言われている。近年では海綿状血管奇形患者における血管透過性の亢進もあると言われる。

 本報告では転移性脳腫瘍ではT1高信号を示すものもあったが、神経膠腫では認めなかった。膠芽腫と転移性脳腫瘍は両者とも血管に富んだ腫瘍であり、基本的な成因に違いはあるものの、意外な結果であった。神経膠腫においては新生血管による血管透過性の亢進があるが、転移性脳腫瘍については脳細胞由来でないためBBBは完全に消失している。

 また、1例の脳内出血症例でもT1高信号域を呈した。脳内出血では炎症性物質の上昇を呼び込むことは言われており、BBBの破綻や血管透過性の亢進に影響すると考えられる。脳内出血による浮腫はすぐに出現してピークを10-20日で迎えると言われるが、本報告ではそのピークでMRIを撮影した症例が少ない。

 本報告では、T1高信号域の最大の要因は血管透過性の亢進したことによるタンパク質の漏出が原因と考えられた。病変周囲の血管系が発達している部位では、漏れ出た成分のうちの血漿が素早く吸収されることが予想され、それがT1高信号に繋がると考えられる。また、海綿状血管奇形と転移性脳腫瘍はその他の病変より出血発症が多いことも、その率が高くなった要因と考えられる。

【結論】

 病変周囲のT1高信号域は海綿状血管奇形に限られたものではなく、メラノーマや転移性脳腫瘍の可能性も挙げられる。この報告では神経膠腫やリンパ腫、脳膿瘍で同様の所見は認められなかった。

【ひとこと】

 海綿状血管奇形のみではないとなると、臨床的有用性は低くなるか。神経膠腫での報告はまだない。